5thアルバム「夕凪LOOP」インタビュー

今回のアルバムは約2年振りなんですよね。

坂本:はい。

今までの作品では菅野よう子さんがプロデュースを手掛けてらっしゃたわけですが、今回の「夕凪LOOP」では様々なプロデューサー陣を迎えてのアルバムとなるわけですよね。今回のアルバムは坂本さん的にはどのような作品に仕上がったと思いますか?

坂本:新しいアルバムは5枚目になるんですけど、一番最初が16歳の時で、常にアルバムを作りながら、その時その時の自分っていうのを音楽という形で残して来れて、私にとってもアルバム的な存在というか、メモリアル的にその瞬間、その瞬間の自分を切り取って来れたっていうのはすごく嬉しいことだなと思っています。

今回のアルバムも25歳の今の私っていうものが凝縮されているというか、いろんな意味で表れているアルバムになったなと思います。大人になったからこそオープンになれる部分というか。

いわゆる10代とか若い時っていう方が、いろんなものに対してよりナーバスというか、自分というものをこうでなくちゃいけないとか、こうなりたいとか、自分を整理したがると思うんですけれども、今は改めてもっと開き直った自分で、あまり恐れずにいろんなことにチャレンジ出来たというか。

自分の知らない自分の良いところを引き出したいろいろな方との出会いによって、それが実現出来たアルバムになりました。

菅野さんと言えば、今までの坂本さんの作品にとって切っても切れないような存在だったと思うんですけれど、他の方に作品をプロデュースしてもらおうというきっかけみたいものはあったんですか?

坂本:デビューシングルから菅野さんに作って頂いて、約8年位ずっと一緒にやってましたから、ユニットでもないし、バンドでもないんだけれども、常に菅野さんと一緒にいるのが当たり前になっていました。そのことに対して別に「一人立ちしたい!」とか、「ケンカした!」とかそういうことではなくて(笑)、なんとなく自然な流れの一部にふとそういうタイミングが来たんですよね。

それは私だけではなくて、たぶん菅野さん的にもふとそういうタイミングがあって、旅に出てみようかなみたいな感じで、5月に発売したシングル「ループ」から、菅野さんじゃない人に曲を書いもらうことになりました。

なるほど。

坂本:同じ人に8年もプロデュースしてもらえるというのは、そんなに多くないことだと思うんですよね。
仕事っていうことだけじゃなくて、10代のすごく多感な時期に女性としての先輩というか、人生の先輩としていろんな影響をもらった人ですから、本当に特別な存在なんです。

そのことはもちろん変わりませんし、改めて私のことをすごくわかってくれてるし、何も言わなくても通じ合えるという安心感があったんですけれども、それが一歩間違うと甘えになってしまうというか、そういう長い時間の中でちょっと私の中でもかなり甘えてたなって今になると思う部分があったんですよね。

そういうことに気づいたのも今回、改めて私というボーカリストがいろんなミュージシャン、いろんなアーティストとコラボレーションするという機会を設けて、自分を見つめ直すきっかけが出来たから、菅野さんとの音楽の作り方についても自分で改めてわかった部分があるし、菅野さんに教えてもらったことだったり、菅野さんを見て吸収して来たことが、今回いろんな人と一緒に作る時にすごく役に立ち、私の中にもいつの間にか私らしさというかスタイルみたいなものが8年間の中で出来ていていたんだなぁと思いました。

今回のアルバムはどのような感じなんですか?

坂本:前作「少年アリス」の撮影でスコットランドに行ったんです。
その時に、360度地平線の景色の中に立って、ふと思いました。

ここまで来なくても、普段暮している東京の街中でも、今感じてる様なもっともっと広い世界との繋がりは感じられるんだと。

時間が止まった感覚というか、自分だけの空間みたいなものって感じる瞬間って絶対あると思うんです。
そういうリアルな私の生活に近い部分での感じられる広がりというか、繋がりというか。
今回はそれを表したいなと思いました。

反対に今回のアルバム制作で苦労した点とかはありますか?

坂本:苦労はその度にいつもたくさんあるんですけど(笑)、今回は単純にやっぱり私にとってもいろんな人にプロデュースをしてもらうっていう経験は初めてでしたので、その初めてのやり方っていうものに一々すごく刺激を貰いました。今までみたいに黙っていてもわかってもらえるっていうことじゃなくて、私が何を発して行けるのか、私の中から何かを発してそれを元に曲を書いて貰ったり、アレンジをして貰ったり。

一からコミュニケーションを作って行かなきゃいけないっていうことは苦労した点ですが、元々そういうことがとても人見知りであまり得意ではないので、最初はすごく緊張しましたね。

アルバムの中で一人の人が何曲か書いてくれてるんですけれども、一曲一曲じっくりを作りながらオープンになれたし、そういう自分の苦手と思っていた分野に敢えて飛び込むことで、私なりに一つ克服出来た感があって、それは今回本当にやって良かったなと思うことの一つです。

プロデューサーの方とか人によってかなり違いましたか?

坂本:そうですね。でもどっちかというと、菅野よう子さんもかなり変わってたかもしれないですけど(笑)。
と言うのも、菅野さんももちろんとてもお忙しい人でいろんな仕事と平行して私のアルバムを作ってくれたりしましたけど、そのスピーディさといういうか、決断の速さというか、かなり直感で行くタイプの人なので、そういう人とずっとやって来ていて、例えばデモテープとかも録らずにその場でピアノを弾きながらメロディを覚えてすぐに歌うとか、そういうことで随分、私の方も特訓されて来た感は(笑)、いつの間にかあって。

(笑)

坂本:だから今回、逆にどんな人とでも割とスムーズにやって行けたのは、結構、何が来ても驚かない(笑)というのに慣れていたからかもしれないですね。

すごいですね、その場でって。

坂本:そうですね。今回の場合はデモテープをいろいろ聴く中でこれが良いなとかこれに詞を書いてみようということで、選びながらアルバムに入れる曲を集めて行った形なんですけど、コーラス部分とか自分で歌う時、その場でラインをアレンジャーさんが教えてくれてすぐに歌うとやっぱりずっとそのやり方に慣れていたので、すごくスムーズに出来て。
すぐにハモリパートが覚えられるのはどの人にも驚かれましたね(笑)

いつもアルバムの中で作詞を何曲か手掛けてらっしゃいますよね、作詞とかっていうのは結構サクサク出来ちゃう方なんですか?

坂本:いえいえいえ、時間がかかるタイプです(笑)

そうなんですか(笑)。今回は特に敢えてこういうことを書いてみようとか、変えて書いてみようとかっていうのはあったんですか?

坂本:毎回、今までやってないようなことをやりたいっていう思いはあるので、そのような気持ちはありました。でも例えば敢えて何かスタイルを変えたいとか、何々風にやりたいとかっていうことはなくて、やっぱりどう書いても結局は自分っぽさみたいなのって出ちゃいますから、あまりそういう奇をてらうことは考えず、単純にその曲、そのメロディを聴いて思い描いた風景だったり、想いみたいなものを素直に詞にしようという風に思いましたね。

坂本さんは声優さんもやってらして、女優さんもやってらして、そして歌い手さんもやってらっしゃるじゃないですか、傍から見ているといろいろやっていてすごいなって思うんですけど、この幅広い活動ってそれぞれ坂本さんにとってはどんな違いがありますか?

坂本:8歳から児童劇団に入って、元々は演技の方に興味を持ってこの世界に入ったので、自分がまさか歌い手になるというのは最初はほんとに思ってなくって、たまたま小さい時から両親がよく舞台を一緒に見に連れて行ってくれてたので、舞台の世界に憧れてというのが一番最初のきっかけだったんですね。

でもいろいろな出会いとか偶然によって吹き替えのお仕事だったり、小さい時からCMソングとかナレーションとか声のお仕事を中心にやって来て、そして16歳の時にアニメの主人公に決まって、それが菅野よう子さんとの出会いで、偶然にもオープニングテーマを歌うことになって。
それから歌の世界にという形なんですけど、やっぱり私の中ではずっと演技というものは、自分自身から離れて全然違うものになれる楽しさがあると思ってたんです。意地悪な役だったり、大人しい子とか強い子とか、本当にいろんな自分を表現出来るっていうのがとても楽しいんですよ。

でもいろんなものに染まれるっていうことは自分の色が無くなって行くみたいな気がする時があって、ときどき不安になったりすることも多くて、一方で作詞をしたり歌うっていうことは自分のカラーを発見して行くことというか、私らしく何かになることじゃなくて自分になるということを表現出来るので、その両方、アプローチの仕方は全然違うと思うんですけど、でも両方あることがすごく私にとってはバランスが良くて、両方とも大事なんです。

自己表現っていう大きな意味ではどっちも一緒なんですけど、入り口がちょっと違うかなって。

それでは頭の中とか体で切り替えてというのは特にないんですね。

坂本:特にないですね。もちろんどこかで切り替えてるのかもしれないんですけど、あんまり意識的にということではなく自然に(笑)

今までいろんな歌を歌って来られたと思いますが、今後、チャレンジしてみたい歌のタイプはありますか?

坂本:どういうジャンルとかっていうことでは、あんまり考えてないんですけど、いつも割といろんなタイプの曲を歌って来たなと思うので、そういうことはあまり考えてないですね。 ただ旅に出てみてすごく良かったことが多いし、私にとってのほんとに良い経験になっていると思うんですよね。

いずれもしかしてまた菅野さんと一緒に作ることもあるかもしれないですけど、その時にもっと成長した私でいたいとも思うし、今は自分を本当の意味で磨く良い時期にいるんじゃないかなと思っていて、だからもっとその旅をもっと遠くまでじゃないですけど(笑)、気の向く方にどんどん怖がらずに行ってみたいなとは思っていますね。

それでは少し話題を変えて、今、音楽以外でハマっているものとかありますか?

坂本:ハマっているもの・・・・、あんまり趣味がないので。

そうなんですか?

坂本:(笑)、無趣味なんです。

集めてる物とか・・・。

坂本:うーん、集めてる物・・・。最近は・・・なんでしょう、物を捨てられなかった自分が随分変わって来て、あまり最初から所有しないという風になっているので(笑)、なるべく家にあまりいろんな物を持ち帰らないようにしてるんです(笑)

捨てられなくなっちゃうんですね(笑)

坂本:思い出だからと思って取って置くんですけど、思い出は物じゃないぞと(笑)思って、旅行に行ったチケットとかもバンバン捨ててます(笑)

じゃあ、今は捨て期なんですね。

坂本:そうですかね、あんまり昔みたいにどうしてもこれを持ってないとダメだとか、所有欲とかっていうのはそんなにないっていうか。
仕事で着る服とかも必要だからいっぱい持ってるんですけど、結局、普段着るのってずっと同じ服だったりとか(笑)、どんどん人にあげちゃったりとかして。
昔はもっと物欲のかたまりだったんですけど、今やっと普通の人ぐらいになったのかも(笑)

今はじゃあ、物欲が収まってる(笑)

坂本:あんまり家に物がないことの方がうれしくなって来たんです。

今はシンプルなお部屋なんですね。

坂本:いや、そんなことないです。

え?そうなんですか?(笑)

坂本:汚いんだけど、それをどんどんどん処分している状態というか(笑)

過渡期なんですね。

坂本:生まれ変わりたい・・・部屋が。

(笑)、なんか意外でした、お部屋とかキレイそうなイメージがあったんですが。

坂本:いや、すごい汚いです。

えっ、それは言わない方が(笑)。

坂本:いやいやいや。でもね、ほんとに忙しくて。忙しい人って普通家が汚くないのかな、どうなんだろう(笑)、私だけなのかな。もう何にも出来ないんですよねー。一応、昨日はちょっと時間があったので、掃除したりしたんですけどね。

時間ないと出来ないですよ。

坂本:みんなどうしてるんだろうなぁ。

いや・・・、私も人のことは言えないので(笑)

坂本:(笑)

それでは坂本さんにとって一番、大切なものはなんだと思いますか?

坂本:大切・・・なんでしょう・・・。大切なものはいっぱいありますけどね、やっぱり単純に自分の回りにいる大事な人というか、身近な人達がいてくれての自分だと思うので、その人達の健康と元気があればすごく良いなと思いますね。

あぁ・・・なるほど。

坂本:ほんとに、一人で何も出来ないので(笑)

それではお薦めのアルバムを一枚紹介して頂けますか?

坂本:「夕凪LOOP」ですね、ハハハ、とりえあえず聴いて頂かないと(笑)。 今はたぶん一番良く聴いているアルバムなので。

じゃあ、「夕凪LOOP」で(笑)

坂本:はい(笑)。いやー、ほんとにいろんなタイプの音楽を聴くので、一枚はちょっと選べないかも(笑)。

それでは「夕凪LOOP」ということですね。

坂本:はい。

今後、挑戦してみたいこととかはありますか?

坂本:うーん、そうですね・・・。

たぶんいっぱいいろんなことをされて来ているのですぐに思いつかないかもしれないんですけれど。

坂本:本当にいろんなことをやらせて頂いてて幸運だなぁと思うんですけど、いろんなことをやっているからって一個一個が中途半端になっちゃうのはイヤなんです。やっぱりいろいろやるけれども、その一個一個に100%自分の情熱だったり、力を注げるように頑張りたいなと思いますね。
今ある一個一個を大事にして行きたいなと思いますね。

それでは最後にみなさんに向けてメッセージをお願いします

坂本:たぶん今までずっと私の曲を聴いて来てくれた方はサウンドが違うなぁとか、私の新しい部分だったりとかっていうのを発見することになるアルバムだと思います。確かに作ってる人が違うのでサウンドも違うのは当たり前のことなんですけども、まっさらな気持ちで聴いて頂いて、きっと好きになってもらえるアルバムだと思います。

今の「25歳の普通の私」みたいなところがかなり出ているし、より身近に感じられる歌詞も多いので逆に今まで全然聴いたことがないという人にもすごく入って来やすい感じの身近さだと思うので、私の曲をあまり知らないという方にもこれをきっかけに聴いてもらえると嬉しいなと。是非よろしくお願いします。

ありがとうございました。

坂本:ありがとうございました。

(Interview:Takahashi
2005年10月中旬)
アーティスト近影

要チェック!

坂本真綾のことをあなたはどんなアーティストと認識しているだろうか。彼女のことをよく知らないという人は、声優としての活動のイメージが強いかもしれない。
しかしアニメや音楽に詳しいリスナーにとっては、彼女が女優であり、声優であり、歌手でもあり、そしてその活動のどれをとっても一級であるということの説明は今更ながら不要な話だ。

2005年10月26日に坂本真綾のニューアルバム「夕凪LOOP」がリリースされる。前作「少年アリス」より約2年振りとなるこのアルバムは、まさにファンにとっては待ちに待った待望のアルバムと言えるだろう。

今作はデビュー以来、彼女の作品のサウンドプロデュースを手掛けてきた菅野よう子の手を離れ、多数のプロデューサーを迎えて制作された、彼女にとってターニングポイントとなる作品だ。

清涼感に溢れた爽やかな歌声と高い歌唱力は相変わらずだが、h-wonderや浜崎貴司(ex.FLYING KIDS)、中塚武等の楽曲によるPOPで躍動感に溢れるサウンドと、坂本真綾というリアルな25歳の彼女を身近に感じさせるチャーミングな歌の世界は、今までとは違った新たな彼女の魅力を引き出す結果になったと思う。

少女が大人になり自分の足で一歩ずつ歩き出す。
一つ一つの物事に直に触れながら、世界の広がりに目を向けて行くような、そんな世界観を感じさせる今回の作品「夕凪LOOP」。
このアルバムは坂本真綾自身にとっても、そしてリスナーにとっても新たなる一歩を感じさせる一枚になるはずだ。

坂本真綾 公式サイト「I.D.」

http://www.jvcmusic.co.jp/maaya/

プロフィール

坂本 真綾(さかもと まあや)
1980年3月31日生まれ。
幼少より劇団の子役として活躍。
15歳の時、プロデューサー菅野よう子に見いだされ、本格的に音楽活動を開始。
2ndアルバム『DIVE』は1999年ミュージックマガジン誌ベストアルバム(歌謡曲/ポップス)に選ばれる。
ナチュラルなボーカルと瑞々しい感性に裏付けられた作詞力が各方面から高い評価を得、2枚目のシングル・コレクション『ニコパチ』はオリコン3位、NHK「みんなのうた」で話題となった「うちゅうひこうしのうた」を収録した、4thアルバム『少年アリス』は8位を記録。2005年は、5月シングル『ループ』でオリコン7位を記録。
米・ロサンゼルスライブで5,000人のファンの前で圧倒的な美声を披露する。
音楽以外の分野でも多彩な才能を持ち、演技、吹き替え等幅広い活躍をみせる。 東宝ミュージカル『レ・ミゼラブル』エポニーヌ役は3年目に突入。 今後ますますその動向が注目されている。
(2005年9月現在)