今宵の出席者
チャーリー:50代。最初に買ったLPはディープ・パープル『マシン・ヘッド』。その後なぜかプログレに走る。今は何でも聴いてるかな。最近買ったのはELO(やっぱおっさん)。東風平:40代。ヘヴィ・メタルとその周辺が大好物。初めて買ったレコードは、映画『プロジェクトA』のテーマ曲だったジャッキー・チェン「東方的威風」のドーナツ盤。
扇谷:30代。初めて買ったレコードは、ロバート・ワイアット「シップビルディング」(たしか・・・)。ちなみに、初めて買った8cmシングルCDは、B'z「BLOWIN'」。
世代で異なるアナログ盤との付き合い方
――まずはみなさんの“アナログ盤(※1)との付き合い方”からお伺いできればと思います。チャーリーさんは50代、東風平さんは40代、扇谷さんは30代ということで、世代や時代による違いというのもそれぞれにありそうですが、そもそもチャーリーさんの青春時代には、アナログ盤が圧倒的に音楽メディアの主力だったんですよね?※1:LPやEP、ドーナツ盤などに代表されるアナログ・レコードの総称。単に“レコード”、あるいは材質から“ヴァイナル(ビニール)”と呼ばれることも。
チャーリー:そうだね、音楽を聴くとなると、やはりまず選ぶのはアナログ盤。あとはまあ、カセットテープやなんかもあったけど。
扇谷:僕の場合、自分で音楽にお金をかけられるようになった高校生くらいの頃には、アナログ盤はもうあまり見当たらなくなっていましたね。一応お店には置いてありましたけど、ほとんどがCDだったので、自分の選択肢には入ってきませんでした。
東風平:僕はおふたりのちょうど中間に当たる世代なので、原体験もまさに中間という感じでした。自分のお小遣いで買えるようになった当初はアナログ盤で、少し経ってからCDに切り替えていった。高校生の身には、普及し始めた頃のCDはまだまだ“新しくて便利な新時代のメディア”という感じでしたよ。
扇谷:80年代後半頃のことですね。その当時にはまだ、お店にアナログ盤がたくさん並べられていたのでしょう?
東風平:ええ。でも、急速にシェアが変わっていった記憶があります。僕は主に某大手外資系ショップを使っていたのですが、ある日行ってみたら、ついこの前までLPが並べられていた棚に、細長い紙箱(※2)に入ったCDが並べられていた。
※2:LP用のレコード棚にそのまま陳列できるよう、CDは一時期、高さ30cmほどの細長い紙箱に封入して販売されていた。
扇谷:CDが紙箱に入っていたんですか?(笑)それは初耳ですね。
東風平:そんな時代もあったんですよ。(笑)最初は“あれ?これってCDが2枚入ってるのかな?”なんて思ったりして。もちろん1枚しか入っていないんですけど。(笑)
チャーリー:あれって国内盤はどうだったんだろうね?輸入盤でしか見たことない気がするけど。
東風平:どうでしたっけ?当時はほとんど輸入盤しか買ってなかったからなあ・・・。あの紙箱をキレイに切って、壁に並べて貼ったりしてたことは覚えてますけど。
チャーリー:あれ、捨てちゃいけないんじゃないかという気がして、ずっと取っておいたりしたよね。(笑)
扇谷:その頃って、同じアルバムがCDでもLPでもリリースされていたんですか?
東風平:ええ、両方出ていたと思います。
チャーリー:でも、当時は全部が全部CDになるというわけでもなかったんだよ。もちろん両方出ているものもあったけど、アナログ盤でしか出ないものもあった。それに、たしかCDの方が発売になるタイミングが遅かったんだよね。先にアナログ盤が出て、それから1週間とか2週間とか経ってからようやくCDが発売になる、みたいな。
扇谷:同じアルバムなのに、タイムラグがあったんですね。
チャーリー:そう。そのタイムラグが、わざとやっていたものなのか、結果的にそうなっていただけのものなのかはわからないけどね。でも、そういう時期もあった。
――それからしばらくして、アナログ盤は結局CDに取って変わられてしまうわけですが、そのスピードというのはやはり速かったと思われますか?
チャーリー:速かったね~。ある日突然なくなっちゃった感じだった。
東風平:CDが出回り始めた頃はまだプレーヤーも高価で、子供のお小遣いではとても買えるような代物じゃなかったんですけど、その後どんどん安価になっていったというのも関係あるかもしれない。僕自身、お年玉を貯めて、さらに電器店で値切りまくって、ようやく自分だけのCDプレーヤーを手に入れた記憶があります。(笑)ミニコンポに組み込むタイプの小さめのやつでしたけど、うれしかったなあ。
扇谷:僕は5歳上の兄が高校生か大学生の頃にコンポを買ってから、ようやくCDが聴けるようになった感じでした。だから当時、自分ではCDプレーヤーは持っていませんでしたね。
東風平:レコード・プレーヤーはどうでした?ご自宅にステレオは?昔は“いかにも昭和”という感じの、やたらデカいステレオが置いてある家もありましたが・・・。
チャーリー:ああ、あったね。木目調の。(笑)
扇谷:(笑)そういうのは、ウチはなかったですね。ちなみに、チャーリーさんはいくつくらいの頃にレコード・プレーヤーを手に入れられたのですか?
チャーリー:ウチにはやっぱり木目調のステレオがあったんだけど(笑)、自分のプレーヤーを手に入れたのは・・・中学生の頃だったかな。中学3年生とか高校生になったばかりとか、そのあたりだったと思う。コンポを買ってもらってね。一番上にレコード・プレーヤーが載ってる、小型のやつを。
扇谷:自分で最初にアナログ盤を買われたのはいつ頃でした?
チャーリー:中学2年生・・・になる時だったかな。
扇谷:じゃあ、ご自分でまずレコードを買って、最初のうちはその木目調のステレオで聴かれていた、と。(笑)
チャーリー:そうそう。(笑)
――その点、扇谷さんは完全にCD世代なわけですよね。何がきっかけでアナログ盤にも触れるようになったのですか?
扇谷:時期ははっきり覚えていないんですが、高校生か大学生の頃に読んでいた音楽雑誌の記事がきっかけでした。当時好きだったミュージシャンが、レコード・プレーヤーで音楽を聴いているという記事が載っていて、それで興味深いなと思って、自分でもポータブルのプレーヤーを買うことにしたんです。『コロンビア』の赤いやつを。
チャーリー:ああ、あれいいよね。当時“コーネリアス・ヴァージョン”とかもあってさ。
扇谷:ええ、まさに。(笑)ベタなんですけど、当時コーネリアスとかブライアン・ウィルソンとかを聴いていた延長線上にあのポータブル・プレーヤーがあったんです。僕が行っていたレコード店にも普通に置いてあったし、値段もなんとかなるくらいだったので、頑張って自分で買って・・・で、「せっかくプレーヤー買ったんだから、LPも聴いてみよう」と。ただ、新品だとやっぱり高価なので、当時は中古盤をよく買ってましたね。だから僕の場合、CDでは出ていないからLPを探して、という感じではなく・・・
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チャーリー:あくまでプレーヤーが先だったんだね。
扇谷:そうなんです。あの頃って、アナログ盤がちょっと流行っていた時期だったんですよ。雑誌に載ったりもしていたので、それにまんまと乗せられたという。(笑)
チャーリー:90年代だよね。あの頃、たしかにそういう動きがあった。渋谷系とかさ。当時の女の子向けの雑誌やなんかでも、「レコード・プレーヤーでレコードを聴くのがファッショナブル」なんてやっていた。
扇谷:・・・だんだん思い出してきました。(笑)当時、小山田圭吾さんが『トラットリア』という自分のレーベルを作って、そこから普通に新作もLPでリリースしたりしていたんですよ。だから当時、そういう流れはやっぱりあったんだと思います。
東風平:アナログ盤は“ちょっとオシャレなアイテム”だったんですね。
チャーリー:そうそう。あえてアナログ盤を買って、しかもコンポやステレオではなく、ポータブル・プレーヤーで聴くというのがオシャレだったんだよ。
東風平:扇谷さんは当時、まさにその流れに乗っていた、と。(笑)
扇谷:ええ、そうなんです。だから木目調とかそういうのはまったくわかりません。(笑)完全にポータブルの時代です。(笑)
チャーリー:俺が小学生の頃・・・というと60年代の話になるんだけど、その当時にもポータブルのプレーヤーというのはあるにはあったんだよ。ただ、当時のプレーヤーは、そんなにオシャレじゃなかったし、コンセントにつないで聴くことしかできなかった。だから、把手は付いていたのに、外に持っては行けなかったんだよね。(笑)といっても、俺もあの頃はまだロックとかじゃなく、ソノシート(※3)とかを聴いてたんだけど。(笑)
※3:アナログ盤の一種。非常に薄く、安価だったため、付録として雑誌などに挟み込まれることもあった。
扇谷:『朝日ソノラマ』とかですね。雑誌などに付いていた。
チャーリー:そうそう。
扇谷:ソノシートって、曲とか歌とかじゃなく、「三島由紀夫、割腹自殺!」みたいなニュースが吹き込まれていたんでしょう?
東風平:いやいや、いろいろあったんですよ。アニメの主題歌が入っているものもあったし、紙芝居のト書きやセリフを読んでくれるものもあった。最近は雑誌の付録にCDやDVDが付いているものもありますけど、昔はそういうのもソノシートでしたからね。
扇谷:なるほど、なるほど。
アナログ盤で音楽を聴くということ
――CDの登場により、アナログ盤は一部のファンを除いてどんどん淘汰されていってしまったわけですが、あれから年月を経て、このところ人気を盛り返しているようです。若い世代にとって、アナログ盤はある意味“新しいメディア”でもあるようですが、みなさんはそうした最近の風潮をどのように見ていらっしゃいますか?チャーリー:面白いなと思うよ。少し前までは、アナログ盤でリリースされるものって、ジャンルやなんかもある程度限られていたようだけど、最近はほら、Perfumeとかも出すでしょ。最近のいわゆるJ-POP系のアーティストがアナログ盤を出すようになったのは面白いと思う。
扇谷:そのPerfumeのアナログ盤、ボックスセットも出るんですけど、海外でめちゃくちゃ売れてるんですよ。
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東風平:アナログ盤を再評価するトレンドは、海外での方が断然早かったですからね。日本はむしろ遅れていた。5~6年くらい前だったかな、知人から「アメリカでは最近、アナログ盤が流行ってるみたいですよ。特に若い世代の間で珍しがられているようです」という話を聞いたのですが、その頃にはもうレコードストア・デイ(※4)も定着していて、あちらでは本格的なトレンドになっていた。その波がようやく日本にも来た、ということなのだと思いますが、これだけリリースが増えているということは、つまりそれだけ需要があるということなんでしょうね。
※4:アメリカで始まった“レコードのお祭り”のようなイベント。毎年4月の第3土曜日に開催。音楽の楽しさや面白さを多くの人に知ってもらうべく、全国のショップやアーティストたちが協力し合い、毎年、様々な取り組みが行なわれている。近年、日本にも上陸。
扇谷:僕自身、ここしばらくアナログ盤から離れていたのですが、「アナログ音源をMP3で取り込めるデジタル対応のプレーヤーが1万円以下で手に入る」なんて聞くと心が動きますもん。(笑)
東風平:でも、僕からすると、不思議でもあるんですよね。アナログ盤って、CDと比べると、圧倒的に聴く手間のかかるメディアじゃないですか。盤をスリーヴなりケースなりから出して、プレーヤーに置いて、というところまでは同じにしても、盤面の埃をふき取ったり、針を上げ下ろししたり・・・だいたい、片面の再生が終わったら、わざわざプレーヤーのところまで行って盤をひっくり返さなきゃならない。
チャーリー:盤の扱いだって、CDほどにはぞんざいにできないしね。
東風平:ええ。そういう手間って、慣れてしまっている人には当たり前のことですが、新たにアナログ盤を見出した若い世代にとっては、それもまた面白いところだったりするのかな?
――僕は今20代なのですが、僕が音楽を聴き始めた頃には、レコードなんていうものはまったく・・・極端に言うと、アナログ盤というものが存在していることすら知らないくらいでした。だから、今日初めてこれを見て・・・
東風平:えっ、初めて見たって?!マジかよ?!
――実はそうなんです。(笑)だからさっきから“アナログ盤って意外と薄いんだな”とか“これ、どうやって音が出てるんだろう”とかって思いながらずっと見てました。(笑)あと“パッケージが大きい分、存在感もすごいな”とか・・・。
東風平:手間についてはどう?今日は司会だけでなく、BGM用のレコード再生係もずっとやってもらってるけど。
――楽しくやらせてもらってます。(笑)聴くまでの所作も、手入れなども含めて。いかにも“趣味”という感じで、素直にいいなと思いながらかけてました。ちょっと違うかもしれませんけど、たとえるなら、お茶を点てるような感じというか・・・。
扇谷:あ~、なるほど。茶道みたいな。(笑)
――そうです。(笑)盤を置きました、針を上げました、回り始めました・・・と、きちんと手順を踏んでいくところは似ているような気もします。
チャーリー:言うなれば“レコード道”だね。(笑)でも確かに、アナログ盤だと、CDで聴くよりもっと音楽と向き合わなきゃいけないかもしれない。
――早送りや巻き戻しをするのもひと手間ですから、アナログ盤を聴く時には、それなりに時間を取って、体勢を整えてから聴かなきゃいけないんだろうなと思います。
東風平:アナログ盤だと、“この曲はあまり好きじゃないから次!”と思っても、CDみたいにボタン1つですぐにスキップというわけにはいかないからね。大抵は曲順通りに聴き進めていくし、面倒だから曲を飛ばしたり戻ったりすることもあまりしない。その分、不便ではあるんだけど、反面、音楽体験としてはより深いものになっているのかもしれない。
扇谷:時代と共に、音楽を聴くということがどんどん楽になっていることは間違いないですよね。音楽配信サービスやなんかもある現代では、スマホをいじればすぐに最新の音楽を聴くことができる。でも、楽になれば楽になるほど、音楽を聴くための面倒がどんどん儀式っぽくなっていくというか、違うものになっていくような気もします。気軽じゃない分、アナログ盤を聴くという行為にも力が入ってしまうというか、「よし、今日はお茶を点てるぞ!」みたいになってしまうというか。(笑)
東風平:そのへんは、音楽に対する思い入れの強さにも関わってきそうですね。
――そう思います。例えば10曲入りのアルバムがあったとして、その中の3曲だけ好きだったとすると、CDならその3曲だけを聴くのも簡単ですが、アナログ盤ではそうはいかない。なので結局は・・・
チャーリー:全部聴くことになる。でも、そうやって聴いているうちに、全部好きになったりするんだよ。“あ、全部いいじゃん!”って。(笑)
扇谷:あります、あります。(笑)僕は、便利で選択肢があり過ぎるというのも、場合によっては良くないことだと思っているんです。自分自身、1曲をまるまる通して聴くということが減ってきていて・・・というのも、音楽配信サービスを利用していて、ある曲を聴いている最中に別の曲を探し始めたり、レコメンドされているものに飛んだりしてしまうことがよくあるんです。まだ10秒ほどしか聴いていないのに、ふと“他にもっと好みの曲があるんじゃないか”と思えてきてすぐにタップしてしまう。で、気が付いたら、あれこれ選んでいるうちに1日が終わってしまったというようなこともありました。(苦笑)
――(苦笑)メディアの中には、アナログ盤と同じように、時代の流れと共に衰退していったものも数多くあります。たとえば、VHSなどのビデオ。今のところVHSは衰退したままですが、アナログ盤はこうして復調してきています。そう考えると、アナログ盤というのは、規格や手間などの面でも、人とちょうどいい距離感にあるメディアだと言えるかもしれませんね。
扇谷:VHSビデオデッキが日本で初めて発売されたのは、1976年のことだったそうです。そして1996年にDVDが登場し、2012年に最後のVHSビデオデッキが発売された。つまり、VHSの寿命は36年ほどだったわけです。これに対し、国産レコードの第1号は1909年、ということで、レコードにはすでに100年以上の歴史があるんです。そんなメディアが今でもまだ生き続けている、というより最近ではむしろ数年前より盛り上がってきている、というのは改めてすごいことですよね。
アナログ盤ならではの音楽体験を
――本当にそうですね。ちなみに、みなさん、音質についてはどうお考えですか?アナログ盤の音はCDより温かい・柔らかいとおっしゃる方も少なくありませんが、みなさんの実感としてはいかがでしょうか?東風平:あくまで個人的な意見ですが、初めてCDを聴いた時にまず感じたのは、音抜けの良さや音の分離の良さでした。とてもクリアなサウンドだな、と。実はCDって、人間には聴こえないと言われる22,000Hz以上の音域をカットしてあるんですよね。つまり、ある周波数以上は倍音の成分もカットされてしまっているわけで・・・
チャーリー:正直言うと、俺は音の違いについてはあまり気にならないかな。ただ、再生する機器にも関係あるとは思うけど、CDは音が痩せてる感じはしたよね。昔のCDって音圧が低かったでしょ。今は音圧も上がってるし、同じデジタルでも技術がかなり進んでるから、そんなことももうなくなったけど、レコードから切り替えた当初のCDはそうだった。だから、レコードだからこう、CDだからこう、というのではなく、単純に技術の問題だったんじゃないかと思う。何十年も前から存在してきたアナログ盤と、当時出たばかりのCDを比べるというのもちょっと可哀想だけど。(笑)
扇谷:以前、大瀧詠一さんが『A LONG VACATION』についてエンジニアの方と対談なさっている雑誌の記事を読んだことあるんですが、そこで大瀧さんは、音の調整にかなり苦労されたとおっしゃっていました。その後も『A LONG VACATION』は何度かリマスターされていくことになるのですが、それってつまり、大瀧さんが、自分の理想とするサウンドへと作品を近付けていく過程だったと思うんです。
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チャーリー:たぶん技術の進歩ということだよね。本人の感性も変わってきているのかもしれないけど、その時点での最新の技術を用いて作品を理想とするサウンドへと近付けるために、そうやって何度もリマスターを繰り返してきたんだと思う。
扇谷:そういえば、高音質CDを製造しているメーカーさんが企画されたハイレゾリューション・オーディオの試聴会に参加したことがあるのですが、その際、「どんな音を目指していらっしゃるのですか?」と伺ったところ、担当の方は「我々が目指しているのはLPの音です」とおっしゃっていました。「LPのサウンドをデジタルでどこまで再現できるのかが自分たちの仕事です」と。僕自身、“おお、なるほど!”と思いましたし、デジタル化する際に失われてしまう部分をなんとかしたい、その上でデジタルの利便性も追求していきたい、というお話にはとても感銘を受けましたね。
チャーリー:CDが出てきた時、やはりまず思ったのは“便利だな”ということだったもの。“裏返さなくてもA面B面が続けて再生できちゃうんだ”と。(笑)ただ、それと同時に、“アルバムの作りが変わっていくんじゃないか”という気もしたんだよね。たとえば、A面を○○サイド、B面を××サイド、という風に設定してアルバムを作るミュージシャンもいたはずだし、盤をひっくり返すための時間まできちんと計算に入れてB面の1曲目を決めていたミュージシャンもいたはずで・・・CDの登場によって、そういうのがなくなっていってしまうんじゃないかという気は当時からしていたんだよね。
扇谷:A面からB面へと裏返す時に、気合を入れ直すというか・・・
チャーリー:そう、一呼吸置くじゃない。それによって、場の空気が変わったり、場面が変わったりすることもあるからさ。
扇谷:そのレコードの雰囲気だけでなく、本人の気持ちも変わりますよね。(笑)
チャーリー:それにさ、単純な話なんだけど、CDだとカットされてる音域があるわけじゃない。それって、“ないよりはあった方がいいんじゃないの?”と思っちゃうんだよね。詳しいことはよくわからないけど、でも、ある方が音として自然なわけでしょ。極端なことを言うと、音域のカットされたものを何十年も聴き続けることで、人体に何かしら影響が出ないとも限らないわけだし。(笑)今、みんなでその実験をやってる最中だからね。(笑)
扇谷:みんなで人体実験中。(笑)
東風平:「22,000Hz以上の周波数は人には聴こえない」とは言われていますが、たとえば“モスキート音”ってあるじゃないですか。若い人には聴こえるけど、歳をとってくるとだんだん聴こえなくなるという。僕自身はもうだいぶ劣化していると思いますけど(笑)、もしかしたら、若い人の中には、僕には聴こえない音域を聴き取っている人もいるかもしれない。
扇谷:ニール・ヤングみたいに、MP3などの圧縮音源に憤った挙句、自分でハイレゾ・プレーヤー(※5)を作ってしまった人もいますしね。(笑)
※5:アーティスト本人の意図した形でリスナーに音楽を聴いてもらうべく、自らがCEOを務める会社『Pono Music』を設立、音質にこだわり抜いたプレーヤー『Pono Player』を2014年に発売。
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――さきほども言いましたが、ジャケットが大きいというのもLPならではの特徴ですよね。12cmのCDに対して、30cmのLPはやはり存在感が大きい。中にはお気に入りのジャケットをインテリアとして飾っている人もいらっしゃると思いますが、アートという面については、みなさんはどう思われますか?
チャーリー:初めてCDを手にした時、やっぱり“うわ、ちっちゃい”と思ったよね。(笑)これもまた変わっていくのかなという気がしたところで、CDにはCD向けのデザインというものがあると思うし・・・ただサイズを小さくするだけじゃつまらないじゃない。もともとLPで出ていたものをCD化する場合は仕方ないけど、最初からCDで出るものについては、やはりCDならではのデザインというものがあるんじゃないかと思った。実際にそうなっているのかどうかはわからないけど、当時、友達とはよくそんな話をしていたなあ。
――“広げるとLPサイズになるCDブックレット”というのもあったそうですね。
東風平:(笑)試行錯誤の跡というか、工夫の跡というか・・・。
扇谷:製作者側の意識が途切れていなかったんでしょうね。(笑)
――LPサイズのパッケージにCDが封入された“でかジャケ”というのもありますが。(笑)
東風平:あるね~。(笑)でも、LPサイズだと、音楽を聴いている間に自然とジャケットやアートワークを眺めてしまうというのは、CDよりはあると思う。
――インターネットで調べればいくらでも情報が取り出せる現在とは違って、昔はジャケットやライナーノーツなどに書かれている情報しかなかったというのもありますよね。
東風平:そうそう。(笑)“まさにこのレコードに書いてあることしか情報がない”という場合も少なからずあったからね。そういう時は、隅々までじっくり見たり読んだりしながら情報を拾っていくしかなかった。だからこそ作品に対する思い入れも自然と強くなっていったのかもしれない。
それにCDだと、スマホやパソコンに音楽を取り込んでしまったら、もうパッケージには滅多に触らなくなってしまったりもする。その点、アナログ盤は、聴きたくなったら実際にレコードをプレーヤーに乗せるしかないわけだから、ジャケットやライナーノーツに触れる機会も必然的に多くなる。だから、パッケージ全体を繰り返し味わうという意味では、アナログ盤の時代の方が向いていたかもしれないね。まあ、そうするしかなかったというのもあるけど。(笑)
扇谷:さきほどから“今日初めてアナログ盤に触った”という同僚を何人も見てきて、改めて、音楽を聴くということがいかに楽になったかということを実感しますね。アナログ盤をこれほど新鮮に感じられるんだったら、触れる機会をもっともっと増やしてほしいなと思います。
チャーリー:今日ここに持って来たレコードのほとんどは当時買ったものだけど、中には最近・・・といっても4~5年前だけど、買ったものもあって、ここ数日、“どうしてこのレコードを買ったんだろう?”と考えていた。で、思ったのは、たぶんレコードを買うという行為そのものを楽しみたかったんだろうなということ。つまり、CD店じゃなくレコード店に行って、CDより大きなアナログ盤を選んで、バッグに入らないから手で持って、レコードを抱えながら街を歩くという、そういうことを楽しみたかったんじゃないかな、と。
“俺、こんなの買っちゃったんだぜ”というのを見せたかったというか・・・まあ、そこまで大袈裟じゃないにしても、自分の好きなレコードを買って帰るという行為を楽しみたかった、というのは動機のひとつだったんじゃないかと思う。だから、「CDはいらない、いや、ダウンロードでさえいらない、ストリーミングで十分」という人もいる2010年代ならではの音楽の楽しみ方として、アナログ盤を買うというのは、ちょっとしたイベントになり得るんじゃないかな。レコードを買いに行く、といういう行為をやってみるのも面白いと思うよ。
扇谷:僕もちょっとだけ中古レコード店に通っていた時期があるんですけど、棚からアナログ盤を1枚ずつ引っ張り出していく作業って、なんか部活っぽいというか(笑)、結構疲れますよね。3時間くらいやってると腕がダルくなったりして。(笑)でも、振り返ってみると、そうやって見つけ出した“この1枚”には、そんな思い出や重さも加わってくるような気がします。
>>【第二夜】近日公開予定。どうぞお楽しみに!
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