イーグルスは10代の日々。教科書やノートの端っこに"Take it easy"だの"Take it to the limit"だの意味もなく書いてた。この2曲が好きってことなんだけど10代の僕には特別な曲に思えたのかも。

70年代の少年少女はアメリカ西海岸に憧れる。イーグルス、ポコ、ジャクソン・ブラウン、J.D.サウザー、ジェームス・テイラー、リンダ・ロンシュタット。ロスから届く音楽は海に近いこの街には優しい陽光が降りそそぎ自由な風が吹いていると思わせた。

だけどイーグルスだけなんとなく違う。
焦燥感、寂寥感、虚無感、退廃感...ダークなイメージが通奏低音のように流れている。初期のカントリー・ロックは作品ごとに陰を潜め、よりヘビーな音楽になっていった。

金のために好きでも無い老人と付き合う女の子。ホテルのバーでは1969年にスピリッツが売り切れた。キメた二人は高速車線をどこまでもぶっ飛ばす。社会問題を提起していると同時に矛先は自分達にも向けられていたのではないのか。
過去の恋愛ばかりのラブ・ソング。別れた恋人とは60年代のことだったのだろうか。僕達が憧れた"夢のカリフォルニア"とは60年代にしかなかったのか。
全ては無駄な時間。
“And maybe someday we will find , that it wasn't really Wasted time” 僅かな希望。

ジョー・ウォルシュの加入には驚いた。イーグルスはどこへ行く。
そして”Hotel California”のリリース。巨大で重たい作品。イーグルスはもう終わりなのかもしれない。それは70年代という奇跡的なロックの時代の終わり。
ランディ・マイズナーは"Take it to the limit" "Try and love again"と歌って世界的トップバンドを去った。

ポテンヒットな"The Long Run"をリリースし人々をがっかりさせ、2度目の来日。アンコールはジョーとジェームス・ギャングの曲を延々と演奏、ジョーの独壇場だった。

80年ついに解散。後にグレン・フライは「銭の山のスロープで全滅する寸前に担架で運ばれた」と解散時の事を回想している。

グレンは82年に1stソロ・アルバムをリリース。イーグルス的カントリーロックはなくソウル/R&Bにぐっと接近している。つややかな彼の声にすごくマッチしてる。そこにはもう重い空気はない。過去の恋に毒づいたりしない。地獄の日々よ、さようなら。髪も切った。今ここにいる彼女にときめいている。True Loveを見つけた。朝が来たら起きるし夜には眠る。オレは生きてるぜ。
MTVで見たグレンはめちゃくちゃかっこいい大人の男だった。マイアミバイスに出演したときはドン・ジョンソンよりイケてたよ。

僕達も大人になった。かつてのロック小僧はギターをボードに変えて週末に海に通うようになった。カーステレオからはカセットに入れた"Soul Searchin'”。この青い海と空はカリフォルニアに続いているんだ。

ドン・ヘンリーは地獄が凍りつかない限り再結成はないと言っていたがついに凍りついたらしい。
イーグルスの作品を純粋に音楽作品として向き合うことができるようになったのか。ファン・サービスでもあるし「ビジネス」でもあるのだろう。といっても手抜きの演奏をするわけじゃない。本人達も演奏を楽しんでいる。
それまであれほど良い音のコンサートを東京ドームで見たことがない。1曲目のHotel Californiaで鳥肌たった。ベテランらしい余裕と自信に満ちたライブ。

Hotel Californiaの作曲者でありバンドの音楽性の拡大に貢献したギタリスト、ドン・フェルダーがクビになった。ドン・ヘンリーとグレンによる双頭政治体制は変わっていなかったんだ。

再結成は5年ぐらいで終わりにしてもよかったのかもしれない。

2007年、4人になったイーグルスのまさかのニューアルバムリリース。それも2枚組というボリューム。
どの曲も良くできている。ファンがイーグルスに歌ってもらいたい歌が入っている。うーん、なんだかソロ曲を寄せ集めた感じもする。
10分を越すタイトル曲 "The Long Road Out of Eden"だけ異質な存在。Hotel Californiaの続編のように聞こえる。アダムとイブがエデンの園で禁断の果実を食べ追放されて以来人類は何をしてきたか。遥かな道のり、たどり着いたアメリカ大陸はLast Resortだったのか。ホテル・カリフォルニアから40年、何が変わったのか。

グレンは2012年、20年ぶりにソロ・アルバムをリリース。
スタンダードのカバー集。ジャズバンドをバックにスウィンギーにムーディに歌ってる。40年代の音楽からブライアン・ウィルソンやバート・バカラックなどのグレンに近い年代の作品が選ばれている。どれもメロディが美しいものばかりだ。幼い日のリンビングのラジオ、下積み時代のアパートのラジオから流れていたのかもしれない。偉大なアメリカの作曲家に尊敬の念を表しているよう。
ある程度の年齢になるとシンガーはこういうアルバムを作りたくなるのだろうか。僕達はこのアルバムに似合うような大人になったのだろうか。
ドン・ヘンリーのニュー・アルバムはルーツに戻ったようなレイドバックした優しいカントリーアルバムだった。
いつか何十年か経ったらイーグルスの音楽もこんな風に歌われてほしい。

このアルバムがグレンの遺作になった。

イーグルスそしてグレンと同じ時代に生き、素晴らしい音楽体験ができたのはとても幸せなこと。さよならグレン、ありがとう。

年末からレミー、ナタリー・コール、デヴィッド・ボウイ、グレン・フライ、ポール・カントナーと60~70年代から活躍した音楽家達の訃報が続いている。いつかはそんな時が来るとは思っていたがついにやってきたのだな。70年代は遠くなった。

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グレン・ルイス・フライ(Glenn Lewis Frey 1948年11月6日 - 2016年1月18日 )