黒沢健一「Focus」インタビュー

本当に待望の7年振りのソロなんですよね。当時、生まれたお子さんも小学校1年、2年に育つ感じのリリースなんですけれども(笑)。

黒沢:はい(笑)。

7年振りのソロ・アルバム「Focus」が完成して今はどんなお気持ちなのかなというところからお伺いしようと思うんですけれども。

黒沢:まず、やっぱり嬉しいですよね。CDとして出せるというかね、1枚の作品としてまとめられたっていうことが。

感慨深い感じ?

黒沢:そうですね。長らくチョコチョコと作ってはやめみたいな(笑)、感じのこの何年かでしたからね。

今回出来上がったものっていうのは、最初に作っていたものの中から変わった感じですか?それとも延長線上で形になった感じなんですか?

黒沢:変わったものもあれば、そうでないものの両方ですね。
他のバンドのボーカルをやったり(笑)、プロデュースをやったりと、いろんなことをやりながら曲は作っていて、その度にプリプロに入って、一応ソロ用の曲としてまとめてたりはしてたんですけど、それがだんだん溜まりに溜まってものすごい数になってて、その中からどうしようかなみたいな感じでしたからね。
そこでとりあえず試しに配信でちょっと聴いてもらおうかなっていうのがスタートとというか、人前にソロとして久し振りにやりますよっていう表明をしたの一昨年の年末ぐらいだったんですよね。

聴いている側としては疑問だったりするんですけど、それはアルバムにする時って書き溜めた曲の中からテーマに合ったものをセレクトして行く形なのか、それともテーマがあって、こういう感じのアルバムを作ろうと思ってレコーディングをして行ったりするのか、そういうのって聴いている側ってわからなかったりするんですよね。

黒沢:僕はいろんなパターンを試してみた人生で(笑)、例えばバンドの時に8月が締め切りでそこがもうリミットです、そこまでに上げて下さいとか、毎年、毎年リリースをしているとかね。
そういう感じだと、じゃあ、次のアルバムはどんなテーマにしようかとか、それに向かって体も作って行くというかね、日々いろんな情報を得て、それを曲にして出して行くというか。
ちょっと難しいんですけど、テーマを作ってそれに進んで行って、そこに間に合わせるみたいな感じだったり、テーマを設けないで、またこれも大変なんですけど、それを何かものが降りて来るのを待つとかね。
だから今回は本当に自分にとって音楽家としてラッキーなことにデッドリミットがなかったんで、それが良いことなのか悪いことなのかわからないんですけど(笑)。

(笑)。

黒沢:3枚目の「NEW VOICES」というアルバムを作った後に4枚目のアルバムって話もすぐあったりしたんですけどね。どうしようかなと思った時に、あの時期にまだやりたいことがたくさんあったんで、そっちの方をいろいろやっていて。だから今回はプリプロしながら自分で理解して行った感じですね。

フォーカスが合う、合わないってあると思うんですけど、最初に曲を作って、これアルバムになるのかな?みたいに思っていて、何回も何回も数年に渡って、いろんなことをやりながらプリプロとかを繰り返して行って、この曲はまだ出す時期じゃないんじゃないかなとか。
そこで一年ちょっと前、配信でリリースしたりした時に、ピンっと焦点が合った感じがあって、これはもうアルバムにまとまりそうだなと。

それは感覚的なものなので上手く言えないんですけど、これだけある曲の中からこれとこれとこれを選んで、こういうふうにすると絶対良いアルバムが出来るみたいな確信に近いものが出て来たんですね、やっと。
それはね、何か不思議なんですけど、リミットを決めないでやったから出来たことなのかもしれないですね。

なるほどなぜこのことを伺ったかというと、以前にたくさんストックがあるというお話を伺っていたんですけど、このアルバムの中の曲って統一感があるような気がしたんですよね。なのでどんなふうに今回のアルバムをまとめられたのかなって思ったんですよね。

黒沢:自分の場合ってあんまり意識的に曲を書くことはなくて、なんか曲を書こうと思って作って、結構放って置くんですよ。そうすると自分で逆にその曲から教えられることが非常に多くて、それに呼ばれる感じっていうか、集まって来るんですよね。

今、出すべきですよこれはみたいな感じで(笑)。
作ってる時はこれは何を言おうとしているのかとか、このメロディーはどうなのかとか、全く意識はしてなくて自分で聴いてもよくわからないんですよ。

すぐわかる時もあるんです、例えばシングル用の曲をオファーされた時に、あっ、次はこの曲だなと思って、これは次だっていう確信というか、所謂すぐにフォーカスが合うんだけど、逆に時間が経ってからわかる・・・、歌詞とかもここら辺は曖昧にしておこうとか、もう放って置いたりするんだけど、2、3年経ってもういっぺん歌ってみたりすると、これはこういうことだったんだなみたいなのがわかったりとか、今回そういうのが7年間いろいろバタバタやってたものの中で曲も自然に集まって来た感じですよね。

それなのに統一感があるってすごいですよね。寄り集まってテーマに沿っている感じがしますよね。

黒沢:短期間で作ってテーマに向かって行ったような感じにはなっているんですけど、それは意識的にやったことじゃなくて、自然な形でしたね。

いつも作られる時ってそういうふうに自分の中で呼び起こされるものに準じて作るんですか?

黒沢:パターンはいろいろありますね。ソロをやる時に関しては、なるたけ絶対そういうふうにしようと 思っていますね。呼ばれないものは書かん!とか(笑)。
やっぱり出来ないものはしょうがないみたいなふうに、やっとそういうふうになれて来ましたね。

前は例えばバンドをやってたりとか、他のアーティストの方に楽曲を書かせて頂く時とかは、スタッフの方とかと相談してテーマとかを決めてやるので、大体そのテーマの中から自分の出来ることを頑張るわけですけど、ソロに関してはなるだけ自然でいようと、書きたい時に書いて歌いたいように歌い(笑)、作りたいサウンドを作るという(笑)。

自然な・・・(笑)。

黒沢:そうそう(笑)、でもそれをやるのは本当に自分の尻を叩かないといけないんですけど、そうやって作ったものって、やっぱどっかしらイビツになっちゃったりとか、計算が入っちゃったりするのが、どうもイヤで。

初めてやることって形になると嬉しくてしょうがないんですよ

それが出来る人ってかなり稀有だったりしますよね。あまりいないじゃないですか。

黒沢:そこは無理矢理やんないとなと思ってて、でも本当はやっぱり怖いんで、なかなか曲も出来なかったりすると、あー、もう俺、全然曲書けないのかなとかね。

だけど敢えてそれも認めて黙ってると出て来たりとかするから(笑)、でもどこかしら根本には自分は本当にただの音楽ファンなので、10代の頃とかね、バンドがやりたいとかっていう以前に、人の曲を聴いてすごく感動したりとかして、自分もやっぱり曲を書きたいなとか、言葉で言えない気持ちみたいなのあるじゃないですか、そういうのが音楽ファンに戻ると自分の中で出て来るんですよね。

仕事というかプロとしてっていう部分じゃなくて、一音楽ファンとして、曲が書きたいっていうモチベーションとか、根底にある自分のやりたいことみたいなのが、時間を置くとすごく明確になって来るので、その時に書いて来た曲を振り返ったりとか、今まで自分の作って来たものを聴いてみたりとかすると、自然に今回はピントが合ったっていうか、そんな感じですよね。

聴かせて頂いて思ったのが、ソロの1st、2nd、3rdと、今回のアルバムは何かが確実に違う気がしたんですよね。これは推測なんですけれど、とてもリラックスして作られているのかなっていう印象が感じられるんですよね。
そういうところって黒沢さんの方では違いがあったりとかはしたんですか?

黒沢:たぶん、それは年齢の違いとかかもしれないし(笑)。

(笑)。

黒沢:実際には3rdアルバムの時よりはもうちょっといろいろ大変だったりしたこともあるんだけども、30代の頃までとかって、やりたいことがいっぱいあって、きっと何か理想の自分に対して闘っていた感じってあるんですよね。自分はこうなりたいみたいなことに対して、それに向かって行くというか。

いろんなことを知らないと選ぶってことが出来ないので妄想でしかないし、デビューしたばっかりの頃っていうのは、まだ右も左もわからないんで、他に何があるかわからない、海外レコーディングはどうなんだとか、このミュージシャンとやったらどうだろうとか、人のプロデュースなんてやってみたらどうなっちゃうんだろう?とか思っていて、実際にやってみたらやっぱり楽しいし、あのスタジオはどうなのかな?とか、このマイクを使ったらどうだろうとか、こんなことやったらこういうふうになるんだ!とか、全てが実験の毎日で、30代半ばくらいまでずっともうそれに夢中で(笑)。

俺はこれが出来たんだって、でもこれはやったことがないからこれをやってみよう、人と一緒にバンドをやったらどうなるのかな?とかね。
ハードロックって歌ったことないけどやってみたらどうなんだろうとか。
初めてやることって形になると嬉しくてしょうがないんですよ。

まだまだわからないことがいっぱいあるから、それをドキドキしながらやりたいみたいなことでモチベーションを上げるのが、20代とか30代のような気がしていたんだけど、振り返ったらいろんなことをやってみた上で、今回アルバムを作るのにスタジオはどうしようかなとか、ミュージシャンは誰とやろうかなって考えた時に、いろんな選択肢が自分の中に出来た中でサウンド的に今一番、フォーカスが合っているサウンドに対して一緒に作ってもらえる人達は誰々で、スタジオもこうだし、アレンジメントの傾向もこうだしっていうのが、培って来た経験の中から選べたんですね。

20代、30代の時は経験ではなく想像だから、きっとこうに違いないって思ってるだけしか出来ないじゃないですか、それを経験を経て自分の中で知識を得た中でこれを選択しようっていう結果が出て来たってことですかね。

黒沢:そうですね。だからまだ20代の頃って妄想の世界でしかなかったから、もうとにかくトライしてみることが自分のモチベーションになってて、そこでソロと向き合った時に、何でもは出来ないけども、いろいろやった中で何を選べるのか自分でわかって来たというか。
たぶんそこが先程、言われたリラックス感っていうふうに音に表れたんじゃないかなとは思うんですけどね。

なるほど、そういうふうに聞くと、今までいろいろなことがあったから、このアルバムが出来たわけで私達は7年待った甲斐があったというわけですよね。

黒沢:そう言って頂けると丸く収まって良いんですけどね(笑)。

(笑)。

徹底的に迷わないと開き直れないみたいなところも結構あると思うんですよ。

黒沢:でも「Grow」とかも20代30代の頃だったら、この曲って歌の他はピアノとストリングスだけなんですけど、僕、もうちょっと前だったら、これにエレキギターが入ったらどうなっちゃうんだろうとか、これにもうちょっと違うのが入っちゃったらどうなんだろうって、実験してみないと気が済まなかったんですよ。

きっと他の曲もこれはこれで成立してるけど、これにこういうものがあったらどうなんだろうって、やって戻って、またやって戻ってっていうのの繰り返して、結果的にこうなってることが今まで多かったんだけど、例えば今、この手の曲を書いたりしたら、あ、前にもそれで実験やって失敗したなとか(笑)、一回戻ったから、今度はもう最初はこういう形とかっていう、その道程とか、あとスタジオとか選ぼうとかね。

どのミュージシャンとセッションしようとかっていうが、昔より多少はショートカット出来るようになったんだと思うんですよ。それでもまだしつこくいろいろ悩んでますけど。

音楽は難しくって正解がないじゃないですか、楽器にしてもアレンジにしても。だからすごい迷うだろうなって気はするんですよね。

黒沢:うんうん、だからそういった意味では徹底的に迷った挙句、開き直りみたいな(笑)。

(笑)。

黒沢:だけど徹底的に迷わないと開き直れないみたいなところも結構あると思うんですよ。究極の迷いまで行かないとまた何か次にやる時、また同じこと迷ってたりとかしてもなぁみたいな。

きっと黒沢さんはCDが出ちゃった後、やっぱりこうしておけば良かったなぁって思うのがイヤなんですよね(笑)。

黒沢:イヤですねぇ。だからもう徹底的に、今回もマスタリング終わってまでもエンジニアに電話してましたもの(笑)。
どうでしょう?プレス聴きました?みたいな感じで。

(笑)、それだけ納得が行く作品が出来上がったってことですよね。

黒沢:そうですね、本当に今回はありがたいことに納得出来る作品を作らせて頂いて。

思っていたよりもリリースがすごく速くてビックリしたんですけれども、iTunesでのシングルが出た時からもう構想が見えていたということなんですよね?今回のアルバムの制作に動き出したのはどれくらいだったんですか?

黒沢:事実上はiTunesで配信した曲はベーシック・トラックは同じなので、あそこら辺からレコーディングに入ってたんですけど、「without electricity」の6月のツアーが終わってから、実際このアルバムに向けての作業は去年の6月ぐらいからほぼ完成したデモテープを元に都内のスタジオに入って完成させてますね。
なので半年ぐらいですかね。

結構、速いですよね。

黒沢:うん、まぁ、実際の作業はね、でもそれまでのベーシックを作るまでがかなり長かったんで、結局それまで振り返ると7年ってことになるんですけどね(笑)。

(笑)、そうですよね。7年は長いですよね。

黒沢:長いです。バカかって(笑)。

でもみんなは待っててくれたじゃないですか(笑)。

黒沢:スマン!って言いながら、でもね良いの出来たら許してほしいなみたいな(笑)、詫びも含め。

そうですよね。アコースティック・ライブをやられて、それは作品に影響を与えた部分はありましたか?

黒沢:ありましたね。僕は自分も田舎で音楽を聴いてて、当時はレコードでしか音楽っていうのは聴かなかったから、レコードが完成形だから、自分は絶対それは人に届ける時に完璧にしようと思ってたんですよ。

海外のアーティストのライブは子供の頃は見れないし当時はレコードで知るしかない、自分はそれを聴いてきたから、伝えられることはとにかく盤で伝えるっていうのを元の考えとしてL⇔Rっていうバンドを作って、非常にマッドなレコーディングを続けて来たんですね。

でも「LIVE without electricity」っていうのは曲を素材としてアコースティック・ピアノとアコースティック・ギターだけで元は全く関係ないっていう形でやったんですけれど、当時作ったものを一回壊してもういっぺん楽曲だけ取り出して、みんなに聴いてもらうっていう、要するに僕にとって新しい構築ですよね。

サブ1 すごい緊張したし、それでお客さんが喜んでくれるのかどうかわからなかったんですけど、本当にあれだけお客さんが喜んで頂けたっていうことと、自分の書いた楽曲が愛されていたっていうことに関して、すごく自信を持たせて頂いて、それが本当に嬉しくて。

DUOの時は久しぶりだし、みんな見に来て頂いたんだなと思ったりもしたんですけど、6月にまた横浜でライブをやったら、お客さんがあんなに来てくれて横浜も満員になっていたから、あっ!これは嬉しいなと思ってですね。そこで自分の書いた曲を聴きたい方が本当にいらっしゃってる事実が確信できたんですね。

「LIVE without electricity」を出す前って、例えばサウンドや音に関してはここのポイントには絶対ドラムがないとダメ、ベースがないとダメとか、全く同じアレンジでやらなきゃいけないとか、お客さんが求めているものに対して完璧でいなきゃいけないみたいなプレッシャーっていうのは、どこかしらあったんだと思うんですよね。

それをぶち壊した形でもあれだけ評価して頂けたりとか、あれだけお客さんに来て頂けたってことは、すごい自分にとって自信になって、そしてCDに入ってない曲をライブでやったのは僕は初めてだったんですよ。
今回にも入ってない曲なんですけど、ライブ中に書いた曲をお客さんの前でアプローチしたりしたのは初めてだったんです。

で、歌いながら歌詞も変わって行くわけですよ。昨日はこう歌ったけど、今日はこう歌ってみよう。
でもそれでもお客さんはその曲から何かを感じてくれたりとか。音楽って実は決まりきったものをそのままやるのではなくって、毎日変わって行くものだし、それはその時その場で違うっていう、その面白さみたいなものを自分も楽しんで、お客さんも楽しめるって空間を自分で作り出せたのがすごく大きかったので、そこら辺が今回のアルバムにもすごく影響が出たと思いますね。

ではそこでライブ感っていうのもアルバムの中に入っている感じなんでしょうかね。

黒沢:バンドでセッションした曲、バンドでせーの!でリズムを録った曲とかもありますけれども、そういった意味ではベーシックはライブで録ったものに近い曲はいっぱいありますが、ただそうは言っても録り方の話であって、実際このままライブでやるっていうことはないと思うんですよね。

また「LIVE without electricity」じゃないけど、逆にCDはCDで、ライブはライブで、同じ演奏はたぶん2回ないみたいな、そういう即興性というか、曲は同じだけど違う曲になっちゃうかもしれないみたいな(笑)、そういうライブをやれたら良いなと今回思ってるんです。
前はそんなこと思わなかったんだけど、最近すごくそういうふうに思うんですよね。

そういうところもまたライブでは楽しみですからね。

黒沢:うん、やっと出来るようになったんじゃないですかね。
前はやっぱりちょっと怖くて出来なかったというか、CDで作ったものをそのまま演奏するっていうのが自分も安心だしみたいな(笑)。

(笑)、それって子供の時にレコードとかで聴いて、何年か経ってテレビとかで演奏を見たりするとアレンジして変わってたりとかしてて、レコードのこのフレーズが聴きたかったのにぃーとか思ったりしましたよね。

黒沢:そうそうそう。

すごいベテランの人が崩して歌ってて、いや、それは・・・。

黒沢:なんだその引っ張り方はみたいなのあるじゃないですか(笑)、そんなに朗々と歌われてもなぁみたいなね(笑)。

そうなんですよね、そういうのがあったからかもしれないですよね。

黒沢:うん、あと基本的にヒット・ポップス・ソング・ファンだから、やっぱりヒット・ポップスっていうのは絶対ラジオから流れて来たあの状態で自分の思い出と共有してるから、あれじゃないとみたいな。

自分はポップスをやっているという意識があるから、みんながラジオやテレビで聴いてたものをそのまま大きい音でその会場で共有するっていうことがポップスの楽しみだろうなみたいなふうに自分では思っていた時があったんだけど、まぁ、そういうこともずっとそれこそやったりとかして来たので。

ソロを始めた時からちょっとそういうのとは違った方向に行こうかなと思ってたのかもしれない。
毎日、音楽は変わって行くみたいなことが出来たら良いなとか思ってたんだけど、まだその頃はたぶんやり方がわからなかったりしたんでしょうしね。
やっと最近少しそういうことが出来るようになったのかもしれないですね。

やっぱり「LIVE without electricity」をやったからだと思います。

あのライブ・アルバムを聴いた時に例えば昔の曲でも、えー!違うー!とかは思わなかったですよ。昔の楽曲を聴いた頃の思い出はあった上であの時のアレンジも昔が甦って来つつ良いと思ったんですよ。

黒沢:それはやっぱり僕のファンの方が音楽ファンだからだと思います。
僕は本当に良いファンに恵まれたと思うし、来て頂けてるお客さんもそこも楽しんでくれる方々が今、僕のコンサートには来て頂けてるんで、随分そこは救われてると思いますね。

基本的にヒット曲をバンド形態でそのままやらないと、なんだよ!っていうのは大方の人はあると思うんですけど、そうじゃなくてもそれはそれで良いじゃんって言って頂けるっていうファンの方が多いのは本当に幸せなことだし、それを理解してくれてる人が会場に来て頂けてるのは、僕は本当に珍しいことだと思うんで、今までの経験値で(笑)。

そうなんですね。

黒沢:えぇ、それはなかなか難しいですよね。

このアルバムまで今まで経て来たことって無駄なことって一つもなかったってことなんですよね?きっと。

黒沢:そう考えたいですね(笑)。

(笑)

黒沢:何とか無駄なことはなかったことにしたいです。

したいですか(笑)。

黒沢:でもほんとにね、そう言い切りたいぐらい素晴らしいアルバムが出来たし、良かったなぁと思いますね。昨日も聴いてたんですけど、すげー、良いなぁって自分で思っちゃって。

(笑)。

黒沢:自画自賛な感じでもう(笑)。

(笑)、気に入らなかったら今ここにCDが出来てないですからね(笑)。

黒沢:そうなんですけどね。

でも本当に良いアルバムなんですよ(笑)。

黒沢:えぇ、本当に良いんですよ(笑)。

まだぁー?って思ってましたけど、私達は待っていた甲斐がありましたね(笑)。

黒沢:なかなか・・・なんで早く出来ないんでしょうね?思い切りが悪いんだと思うんですよね。

でも、ここら辺でもう良いかなーっていうのはまたそれはそれでイヤじゃないですか(笑)。

黒沢:それはイヤですね。なんか出したんだけど含むところがあるとか、そういうのはイヤですよね。

だから清々しい気持ちで胸を張って出せるものが出来たっていうのが素晴らしいですよね。

黒沢:そういうふうに毎回やってるからアルバムのタームが開くんだと思うんですけどね。

そうですね、また7年はちょっと困りますね。

黒沢:なるたけそれは避けたいなと思うんですけどね(笑)。

せめて半分くらいにしてほしいですね。

黒沢:なんとか・・・、はい(笑)。

今回のレコーディングは遠山さんに木下さんに堀さんということで、みなさん仲良しなメンバーで作られたと思うんですけど、この最強のメンバーで作られたレコーディングというのはいかがだったんですか?スムーズだったりしたんですか?

黒沢:全然スムーズでしたね。逆に自分の友達がこんなにすごいミュージシャンなんだっていうのは得だなーとか思いましたけどね(笑)。基本的に友達づきあいが長いんでありがたいことですよね。

遠山さんとかこれだけ長いつきあいで、気軽に電話して、明日ちょっと聴いてもらえます?とか、木下もちょっと・・・みたいな感じでやりとり出来る気軽さ、で、堀ちゃんもちょっと叩いてよみたいなのって、それでなかなか良い音を出してもらえるってないと思うんですけどね。
結局その狭い世界なんだけどものすごく良い音楽が出来るHow Toを持てたってことはありがたいことだなと思いますね。

実際だと良いヤツなんだけど下手なんだよなぁとかありますよね。

黒沢:そういうパターンってとかく多いし、なかなかそこは難しいんだけど、本当に今回「Focus」を一緒に作った仲間っていうのはそういうことがないし、本当に僕はラッキーだなと思いますね。

どこかしら何かやらかしてくれる変なヤツが一人ほしいと思ってる自分もいる

ライブもこのメンバーで回るんですよね。そこも楽しみですよね。

黒沢:楽しみですね、楽しみなんですけど緊張してますね。

えぇっ(笑)。

黒沢:他の3人とかはツアーとか慣れてますし、ライブ慣れしてるんですけど、俺はアコギを掻き鳴らす男なんで(笑)、基本的にあれだけの感じなんでみんなにフォローしてもらいながら頑張ろうと(笑)。

(笑)、ギターも入れるのかなと思ったら・・・。

黒沢:入れません。(キッパリ)

入れないんですね。

黒沢:はい。

じゃあ、ギタリストとしても・・・。

黒沢:いや、ヴォーカリストとして頑張れれば(笑)。
でもね本当にこう言ってる自分が昔と随分変わったなと思うんですけど、完璧になっちゃうのがイヤで、例えば僕がこのバンドをプロデューサーみたいな感じで見ちゃうと、ここに一人こういう感じのギターが弾ける人がいてアンサンブルが出来ちゃう。

たぶん完璧にCDの音を再現出来るだろうとは思うんだけど、それってどうなんだろう?っていうか、何かが足りてないから、じゃあ、これを頑張らなきゃみたいな、自分がスタジオ・ミュージシャンと言われてる人達の中で一緒に演奏とかしてると、全部が構築している中で自分の必要性っていうのはわかるわけですよ。
ここにこういうカッティングを入れれば成立するとかね。
そこからずっと外れずに進んで行く音楽の中に身を投じてる感覚がずっとあって、それはそれですごく、その音楽が鳴っている間の時間の流れっていうのはすごくキッチリしてて安心なんだけど、破綻してない分ドキドキしないんですよね。

例えば3分30秒演奏してる中で自分がそういう人達の中でこういう演奏をしているとすごく安心なんです。
間違ってないし正しいそして綺麗、誰にも文句を言われない、だけどそうなってくるとここで俺が手を離したらどうなるだろう?とか、ここで歪ませたらどうなんだろう?とか、思っちゃうんですよね(笑)。

(笑)。

黒沢:みんなすごいイヤな顔するかなとか。
でもそこですごい良いものが出来るんじゃないかとかって考えながらの3分30秒を過ごす自分が確実にいたりとかすると、自分も別な面からそれを見てると、なにもそんなことしなくても大人しくそこで黙ってこうやってれば問題ないよって見てるプロデューサー的な感覚の自分もいるんで。

でもどこかしら何かやらかしてくれる変なヤツが一人ほしいと思ってる自分もいるって相反してて、今回ソロでライブをやる時に何を考えたかって言ったら、そういう何かぶち壊すヤツが一人いた方が楽しいんじゃないかなって考えだったんですよね。

それでこのメンバーでっていうことなんですね。

黒沢:だからまぁ、僕が弾かなくても、あとの3人がなんかやってくれるっていう(笑)。

そうなんですね(笑)。

黒沢:人に頼ってるわけじゃないですよ(笑)、僕も頑張りますけど。自分、頑張らないととは思うんですけどねぇ。

でもそれは3人は受け止めてくれるってわかってるから安心して出来るんじゃないですかね。

黒沢:そうですね。でも僕も安心しすぎちゃうとそれはあんまり良くないので、自分もやっぱり「LIVE without electricity」の時ってやっぱり本当に極度の緊張感の状態でやっていたから、それに比べたら、音が多い分、随分と今回はありがたく楽だなと思うんですよね。

だけど前のソロのライブの時って本当にベテランの方々と一緒にいたので、そういった意味では一ヴォーカリストとして、下手すりゃ朗々と歌うことも可能だったみたいなところから(笑)、ちょっと外れたいかなって思ってた。

何となく生っぽい感じのライブになるのかななんて・・・。

黒沢:そうですね。

割とハプニングとか起きそうな。

黒沢:そう、ドキドキしてますね。たぶん起きると思います。

ハラハラしつつ・・・。

黒沢:良いハプニングだったら良いんだけどね(笑)。

例えばロックって全部じゃないですけど破壊だったりして(笑)。

黒沢:破壊はしたくないです僕、本当はねちゃんとやりたいんですけど、それがどうしようもない形で破綻した時にそれが綺麗だったりする時があって、つつがなく本当は綺麗にまとまった中でやって行くことが安心することなんでしょうけど、それを決まりごととしてやって行ってしまうと飽きちゃうんで(笑)、そこをどうやって行くかってことだと思うんですよね。

お話を伺っているとますます今後のライブが見逃せない感じになって来ていますね。今回のアルバムの楽曲で1曲目の「Grow」はストリングスを入れていますけれども、これってどういうところでストリングスを入れようかなと思ったんですか?

ソロ・アルバム「Focus」

黒沢:最初に自分で作ってたデモテープがかなりマッドな感じで1年半くらい前、家でPro Toolsをいじってて、ピアノと弦と歌だけで合うのがわかってたんですよ。
だけどそれだと普通だから、何かそこで違ったサウンドがあると、なんか面白いサウンドが出来るんじゃないかなと思いながら、いろんな音を重ねてたりとかしたんですけど、非常に不気味なサウンドになってて(笑)、こんなことやっててもしょうがないから、スッキリこの曲はこういうアレンジにしようと思ったんです。

バラード曲がアルバムの幕開けというところで、ちょっと意外だったんですよね。どうして1曲目はバラードなんだろうって思ったんです。

黒沢:今はもうダウンロードを始めとして音楽の聴き方って多様化してると思うんですよ。
CDって形で出す時に必ずやっぱり普通は1曲目から聴くじゃないですか、僕はやっぱりアナログの時代からCDの時代までずっと音楽を聴いて来ていて、昨今、1曲目は必ず派手な曲っていう決まりきったことになっちゃってることに慣れちゃってるけど、でも僕が好きなロック・アルバムとかは1曲目がとんでもないSEで始まったりとか、バラードで始まる名盤ってやっぱり多いし、そういうことは全然ありじゃないかなと思ったんですよね。

もうその時点でもしかしたらこのアルバムを気に入ってくれる人とそうじゃない人が決まる。
1曲目でちょっと地味に思ってしまう人はたぶんいるかもしれないけど、それに対して怖がらない作品じゃないかなと思っていますね。

確かに大体は歯ざわりの良い曲を持って来て、そこで捉まえるようにしますものね。なるほどそういうところだったんですね。セオリーとはちょっと違うなと思ったんですよね。

黒沢:そうですね。だから1曲目はあぁいうアップテンポの曲っていうのは定番で、自分もやっぱりそれはやって来たし、それはわかるんですけど、でも今、CDというものを買うお客さんっていうのは定番というかそういうものに飽きちゃってるのかもしれないし。
そうじゃなくて音楽が好きな人はやっぱり必ずCDを買うし、わかってくれるんじゃないかなと思いますよね。

今回のアルバムは4曲シライシ紗トリさんが手掛けていますよね、とても新鮮な感じがしましたね。

黒沢:すごいありましたね。やっぱり逆に自分がフォーカスが合ったっていう話しですけど、そこら辺の背中を押してくれたのが、彼の存在だったりとかしたのかもしれないですよね。

ポップ・ミュージックっていうものを作る世界の中で自分はその作った曲を客観的に聴いてみたいっていう欲求っていつもあって、自分のライブって自分で見れないっていうのは、それはもう仕方ないんだけど、自分のライブは一生見れないし、自分の作った曲も本当に自分で客観的に聴けるかどうかって、やっぱり難しいと思うんですよ。

20年くらい前に作った曲で忘れてても、やっぱり掛かるとやっぱり客観性がどこかしらないから他人のものとしては聴けないんで、それがあそこまでシライシ君に任せると、すごく客観的に自分の曲だと声だとか、そういうこともやっぱりわかるし、あと逆にレコーディングも楽しめますよね。

聴かせて頂いてこの4曲は黒沢さんのイメージとかを壊さないけど新しい感じがしたんですよね。9曲目の「Do we do」みたいな曲って今までソロでもL⇔R時代でもなかった感じの曲ですね。

黒沢:そうですね。ここまでバンド・サウンドでグルーヴィーな感じはあんまりないですね。

それに対して黒沢さんはヴォーカリストとして歌い切っちゃってるところっていうのもすごく新鮮でもあったんですよ。だから一緒にやることでこのアルバムの中で違和感とかも全くないのに、でもバラエティに富んだ内容になってるのは彼のプロデュースの曲も入っているからなのかなっていう気がしますよね。

黒沢:そうですね。彼のプロデュースのこの4曲っていうのは本当に絶妙のバランスで入ったんじゃないかなと思うし、2曲でもやっぱり足りなかったし、半分以上になっちゃうとまた違うだろうしとかね。
ここら辺の言葉にならないサジ加減の信頼感っていうのは、もう音を聴いて出してくれる人だから思い切って振れたんだと思うんですよね。

この曲だとこう来るよねっていうんじゃないところに来そうな感じがするんでよすね。シライシさんは藤木直人さんの作品も手掛けていますが、藤木さんのミニ・アルバムの中で「アイネ・クライネ・ナハト・ミュージック」のカバーと黒沢さんの書き下ろし楽曲も提供されていましたよね。あの時に原曲のイメージを崩さず、また一味違った楽曲に仕上がっていましたよね。

黒沢:そうなんですよね。僕も藤木さんが「アイネ・クライネ」をカバーするって話を聞いた時にビックリしたし、シライシ君自体が「アイネ・クライネ」って曲をあぁいうふうにアレンジしたことにもビックリしましたね。

あの時スタジオにコーラスでって呼んでもらって、それで藤木さんの曲を聴いて「アイネ・クライネ」をこういうアレンジでやったって言って聴かされた時に彼とやったら面白いかもと思ったんですよね。
じゃあ、新曲をこの人にアレンジしてもらったらどうなるんだろうかと、「アイネ・クライネ」っていうのはL⇔Rバージョンっていうのがあるわけで、僕はあの当時、あの曲はあぁいうふうにしか捉えてなかったし、あぁいうふうに出すことっていうのは自分の中のミュージシャンとしての、あの曲に対してのプロデュースだったんですね。

だからあの曲はある意味、僕の一つの音楽の形というか音楽のあり方っていうのが結構出てる曲で、でも今思うとあの曲は決してポップ・ミュージックではなかったと思いますね。
L⇔Rの「アイネ・クライネ」って当時はちょっと実験的なサウンドだったと思うんですよ。
今は普通にポップ・ミュージックとして聴けると思うけど。
だけどシライシ君がアレンジした藤木さんの「アイネ・クライネ」もちゃんとしたポップスになってて、これはすごいなと。

彼にはかなりマニアックな曲を振っても、意地でもポップスにして返して来るだろうなとか思ちゃって(笑)、これは逆に俺があんまり気にしなくて良いことだなみたいな。
どんな曲を投げてもきっとポップ・ミュージックとしてきっと返って来るだろうという信頼感はほんとデカかったですね。

何で俺、こっちに手が動いちゃうんだろうとか

今回って全曲って苦労して作った曲とかはなかったんですか?

黒沢:苦労という概念がどうなのか知らないんだけど、やっぱり最終的には楽しんでるんでしょうね。
ただ他の人から見たら、1曲書くのにどうしてもサビが出て来なくて1週間ぐらいボーっとしちゃってるとか、でも出来るともうそういうことはどうでも良くなっちゃうっていうか。

歌詞とかも1行なんだけど、もうー1日そのことを考えてるとか。
でもやっぱり形になって行くと、それは嬉しいことだし、そういうことが苦労なのか大変なことなのかちょっとわからくなって来てるというか(笑)、だから基本的にやっぱり音楽をやるのが好きなんでしょうね、どういうことがあっても。
そういう場合、どういう感覚なんでしょうね。やり甲斐があるというか、何なんでしょう。

サビが出て来ない、どうしてなんだ、AとBが最高なのにとか思って、1ヶ月ぐらい掛かっちゃう時もあって、その間ずーっとそのサビのことを考えてたりとかすることもあるし。
でも普通のお仕事をされている方からしたら、1ヶ月そういうことばっかり考えてるのって尋常じゃないと思うんですよ。

たかがそんな歌詞1行、そしてその歌詞が自分的に良いと思ってても、それが売れるかどうかもわからないだろうし、何によってそれがベストなのか判断しかねるだろうし、そのメロディがこっちとこっちを選んだかの違いなんて、きっとどっちでも良いだろうと思うし。
でもそれは傍目から見たら勝手にしてろそんな苦労って感じだと思うんだけど。

いやいや(笑)。

黒沢:(笑)、いやいや、でもたぶんそう思いますよ。
だけどやっぱりそれがフォーカスが合って、そのAかBかが決まった時のその爽快感、やっぱ理由があってBだったみたいな時の喜びっていうのは、やった!みたいな。
そういうのがありますからね。

なるほど、今回のアルバムって全部の曲にあーこれこれ!っていうフレーズがあるんですよ。

黒沢:うん。

そういうのってきっとそれは黒沢さんが1ヶ月、うーんって悩んだりした中にあるんだろうなって思ったりするですよね。

黒沢:それはすごい嬉しいですね、聴いた人にそういうフレーズがあるって。
もしかしたらそのフレーズはそういうふうに思ってほしいからとかって計算ずくで使ったわけじゃなくて、何かこうそこに来たフレーズなんで、それに共鳴してくれることに対して、そういうことを聴き手にわかってほしいから、そういうことをしてるんだと思うんですけど。

前の曲を聴いてても、さっきも言いましたけど、しばらく時間が経つと客観的に自分の曲を聴いてみて、当時、何で悩んだ末にこうしたんだかわからないメロディとかたくさんあるんですよ。
でも何か勘が働いてそうしてたとかっていうのが今、聴き直すと明確にこうしておいたのが、何でこうなのかっていうのが、言葉じゃ言えないけど、今わかったりとかすることっていうのがあって、それって正しかったんだなと思うんですよね。

当時は意識しなかったけど、7年前のアルバムとか聴くと(笑)。
だから何かそこでピントが合ったものを出すと、僕がそうしたってことじゃなくて、僕の後ろ側にあるものを何かこう人が感じてピンと来てるんだと思うので。

それに対して僕が勝手なエゴとかで歪めて人に伝えちゃいけないんですよね。
元々あるものだったりとか出てくるものが、正しく出てくるものが本当はきっとどこかにあって、僕を通ってるだけだと思ってるんで、何となく。
霊媒みたいな話になってますけど(笑)。

(笑)。

黒沢:別にあの俺、宗教入ってたりとかそういうのはないんですけど(笑)、そういうふうな感覚はありますよね。何で俺、こっちに手が動いちゃうんだろうとか、どうしてここは絶対このコードが変なのに、このメロディの方が絶対腹に入るんだよね。

そこで遠山さんなんかにそこで悩んで相談するわけですよ。
「これ絶対変だよね」、変!おかしい、でも絶対こっちの方がしっくり来るんだけどって、なるほど、じゃあこうすれば解決するかもみたいなアレンジ的にまとめて出しておくと、やっぱりそこで自分が引っ掛かってたところが、結果的に良い!ってポイントになってたりするから、あれは非常に不思議なんですよね。

僕もその理由がわからなかったんだけど、遠山さんがここは何なんだろう、なんでここにメロディが行きたがるんだろう、でもこっちはこうだよねって言った時に、理屈ではなく絶対にこっちに行きたいっていうのがわかる時がありますね。

なんでしょう、音楽の神様にこうしなさいって言われてるとかみたいな感じなんでしょうかね。

黒沢:神様というより、たぶん自分の子供の頃に聴いてた音楽とかそういうものの中に、そういう要素、質感、サウンドがあったりとかしてるんでしょうね。
それが曲を作ってると出て来て、でもそれが口じゃ上手く言えないんで(笑)、何かこう作ってみるみたいなことになるんじゃないですかね(笑)。

そうやって伺うと何か不思議ですよね。それがこうやって形になってアルバムになってパッケージになるって感慨深い気がしますね。このアルバムは前作ソロ3作品に対して、黒沢さんの中でどんなポジションにある作品なイメージがありますか?

黒沢:前の3枚もすごく自分にとっては大事な作品で、その時その時の全力のアルバムだったりとかしたんだけど、今回のアルバムはある意味、ちゃんと自分というのがアルバムに投影できたんじゃないじゃないかなと思いますね。

前のアルバムもそう言った意味ではそうなんだけど、自分の中で1stアルバムとちょっと似てる質感があるかもしれないかな。
自分がソロでやる時にこういう音楽をやりたいと思って、それに対して何のストップも掛からず(笑)、自由にやらせてもらえたっていう感じですよね。

サブ2

ではまた新たな始まりみたいな感じなんですかね。

黒沢:そうですね。1stの時は自分でセルフ・プロデュースだったんで、全部そうだったんです。
今回はプロデュースを選ぶところも自分だったから、人にプロデューサーを振るとか、そこら辺の客観的なあり方っていうのが、今回は1stとは厳密には違うんだろうけど、1stの頃の全部俺が好きにやる!好きにやるんだ俺は!イギリスに行ってさー!みたいな(笑)、その時点で自分が見えてないみたいな(笑)ところがあったけど、今回はもうちょっと大人になったのかもしれないですね。

ここは全部自分でやっちゃうとあんまり面白くないから人に振っておこうみたいな、人に振ってやってもらおうみたいなところを人に頼めるようになった。
人にお願いしますって言えるようになった、そして自分でやっちゃったら面白くなくなりそうなことがわかったこと。

前は絶対自分がやると面白くなるはずだって思ってたのに、7年やってみたら、自分がやっちゃうとやり過ぎちゃうんだとか、自分がやっちゃうとなんかここら辺くどいなとか(笑)、失敗しそうだなとかいうとこはなるたけ避けて人にお願いできるようになった、素直に(笑)。

そこは大人になったんですか?(笑)

黒沢:そう(笑)、前はせっかく自分のソロ・アルバムなんだから自分がプロデュースする!みたいな(笑)。
出来る!そっちの方が良いはずだ!みたいな、自己過信(笑)。

若さっていうのはそういうものなんですよ(笑)。

黒沢:たぶんね、まだ20代後半でしたからね、あの頃は。

全部やるんだ!みたいな。

黒沢:そう、で、それを乗り切るのが俺は良いんだ!みたいな。

あぁー(笑)。

黒沢:で、やっと出来たみたいなところで、俺はやったぜ!みたいなとこですよね。
まぁ、良いアルバムだと思うんですよ。
その割にあのアルバム、妙に既に老成してるんですけどね(笑)。

(笑)。

黒沢:そんな元気の良いアルバムには聴こえないところがまた良いんですけど(笑)。
あの時は外部プロデューサーとか考えなかったもの、イギリスのジョン・ジェイコブスっていうエンジニアもちょっとプロデューサー的な人だったし、そういうフォロー・アップがすごくあったから、必要なかったのかもしれないけど、今回は最初からアレンジの段階でこの人に振っておこうとか、ここら辺はこうしておこうとかみたいな、そういうところまでなかなか行かなかったですよね。

それって良い意味で肩の力が抜けたってことなんですかね。

黒沢:そうですね。周りの方にもそうさせてもらえたというのが大きいですね。
どうしても自分で1stアルバムとか作った時とかは、回りもそんなに考えることもないのにって思ってたのかもしれないけどね(笑)。

それをしないとここまで来れなかったんでしょうからね。

黒沢:遠山さんに悪いことしたなと思いましたね(笑)。

(笑)、それはお会いした時にごめんねって言ってあげて下さい(笑)。

黒沢:はい。

でもみなさん今もちゃんといてくれて一緒にやってくれてるから。

黒沢:はい、そうなんですよ。大変ありがたいです。あんなヤツと二度とやらんと言わないで、7年振りにまた集まって頂けたということに感謝ですよ。

お友達は大切に。

黒沢:大事です、はい。

今回のアルバムはどんな人に聴いてもらいたいなという希望がありますか?

黒沢:普通の日常の中で掛けてもらえるCDになったら良いなと思いますね。
音楽が好きな人もそうでない人も、今日は何か退屈だなと思ったらPLAYボタンを押して聴いてもらうような場所にこのCDが1枚あってくれると、決して悪くないんじゃないかなと思いますね。

ポップ・ミュージックって、本当に普通にあるもので、大したものじゃないと思うんですよ、街で売ってる普通の白いごはんみたいなもので、当たり前にあるみたいな感じで消費されて行くものだと思うんですけど、でも無くなると絶対みんな困るとは思ってるんで、だとしたらそういうものはなるたけ質の良い白米を(笑)、人に供給したいみたいな感じですかね。

名前入りのみたいな。

黒沢:そうそうそう(笑)、毎日食べるもんでしょうみたいな、ポップ・ミュージックはみんないろんなこと言っても、毎日聴きたいでしょうみたいな。
なんかそういう感じでありたいなと思うんですよね。

さりげなくいつも近くにいてくれるものっていうことですよね。

黒沢:うん、そうですね。

農協の何とかさんが作った名前入りのお米みたいな。

黒沢:そうそうそう、でも選ぶのはいっぱいあるから、まぁ、今日はこっちで良いかなみたいな。
パンとか米とかパスタとか。

(笑)。

黒沢:まぁ、みんなおかずが大事だろうと今日は何食べようかなっていうことはおかずの話をするけども、ハンバーグにしようかっていうのはわかるけど、その前に白米がないとハンバーグは成立しないでしょみたいなところがね、ポップスだと思うんです。

なるほど(笑)。

黒沢:はい、アハハハハ。

でもお米は大切ですからね。

黒沢:大事ですよ、えぇ。

ではなくてはならないものということで。

黒沢:はい、ハンバーグだけ食うヤツはいないだろう!みたいな。

では“「Focus」は優良な白米のようなアルバムです”ということですね(笑)。

黒沢:はい、タイトルを「Rice」に変えましょうか!それぐらいの。

(一同笑)

でも確かに日常生活をしながら聴くのにとても良いアルバムだなと思うので、それは遠からずだと思うんですよ。

黒沢:僕もポップ・ミュージックが好きでヒット曲も大好きなんですよ。
ちょっと年上じみた話になっちゃいますけど、川柳とか俳句とかって詠み上げた時に来る、作者と自分の感覚と上手い具合な渡り方っていうのがあると思うんですよね。

いきなり川柳と言いつつキツイ言葉でバッと言われちゃうと、もうゴメンってなっちゃう。
ならそうじゃなくて、受け手側の余裕も残しつつ、何かやりとりを出来るみたいなのっていうのを僕はヒット・ポップスだったりとか、ポップ・ミュージックのサジ加減だと思ってるんだけど、そのサジ加減が最近ちょっとバランスが崩れてるんじゃないかなっていうのを僕は思っていて、自分はやっぱり川柳の名を語った相手への警報みたいなのとか、俳句の名を借りたスローガンに近いものだったりは、僕はそこはちょっと辛いなって思っちゃうんで、そこら辺は聴き手の側にも上手いこと言うねぇって返しがちゃんとあるような余裕感をちゃんと持った上で作品を作りたいなって思うんですよね。

自分のポップ・ミュージックを作る時のサジ加減ってそこかなぁ。
僕が音楽ファンだとして、こっちからの意見を相手に言えないような曲が結構・・・。

言い切っちゃう。

黒沢:そうそう、言い切っちゃって、あのさ・・・とかっていうのはイヤなんで、上手いこと言うねぇ!とか、俺はここ好き!とかってアーティストじゃなくて曲に対して言い合えるのが、そこがすごく俺はポップ・ミュージックを好きになったポイントだったりするんだと思いますね。

そういうわかってる人がいてちゃんと音楽を作ってくれないと偏った世界になってしまうので絶えずやってほしいなと思うんですよね。

黒沢:頑張りたいと思っております。

期待しております。そしてもう1つ忘れちゃいけないのが4月にパンダちゃんの兄弟、ハンキー・パンキーのデビューが予定されていますけれども、こちらはどのような感じになりそうですか?

黒沢:(笑)、これは5曲入りのミニ・アルバムで、今回の「Focus」とは全く違う、auのパンダの絵文字から発生したキャラクターということで、黒沢健一のソロとは全く違うもので、あくまでパンダのキャラクターありきの作品なので、楽曲とかも元々、あのパンダが歌うような。

声を変えて歌っているわけじゃないんですけど、例えば「上を向いて歩こう」ってカバーもあのユニットじゃないと出来なかったろうし、遊び心を持って久しぶりに秀樹と一緒に何か出来ればなと思ったんで、ちょっとソロとは毛色が違うんですけどね。

逆にすごくコアなポップ・ミュージック・ファンの人達とかが楽しんでくれる音源になってるんじゃないかな。
チャボさんと一緒にやってるセッションが2曲入っているし、「First Stars~上を向いて歩こう~」と新曲の2曲も入っているので。

こちらも楽しみですよね。

黒沢:子供が買って聴いた時に楽しめるようなそういうCDだったら良いなっていう想いで作ったんですけど、蓋を開けたらチャボさんとの大ブルース大会とかになっちゃって(笑)。

子供はビックリみたいな(笑)。

黒沢:そうそうそう、お前これガチじゃないかよみたいな(笑)、俺、最初はそんなつもりっていうか、そうだなー、パンダのCDだったらお子さんも聴くしね。

じゃあ、ちょっとそういう感じでお子さんが聴いても楽しめるような楽曲を久しぶりに純然たるポップスを書こうかななんて思って、「上を向いて歩こう」は良いから、もう1曲オリジナルと後、ロックンロールをと思ってたんだけど、チャボさんが入ってくれたらね、かなりガチ音楽ファンのアルバムじゃんみたいな感じになってるんだけど(笑)、落ち着けどころをどうしようかなと。

もう生半可な気持ちでは聴いてはいけない感じ(笑)。

黒沢:(笑)そういうつもりはなかったんだけど、スタジオに入ると楽しくてね、つい忘れてしまいましたよ。
これはパンダのアルバムということを。

いや、そういうところが良いんですよ(笑)。

黒沢:(笑)。

音楽に手加減はしないぜみたいな(笑)。

黒沢:スタジオに入っちゃうと楽しくなっちゃってね。結局そういうふうになっちゃうんですね。

大人が買うアルバムで大丈夫ですよ。それでそういうのを聴いて大きくなった子がどんなふうになるのかが楽しみじゃないですか。

黒沢:そうですよね!

僕もなんで曲が書けるのかなとかわかんないんですよ、理由がね。

こちらの作品の方も楽しみですよね。そうそう忘れちゃいけないのが、今回はアルバムタイトルをどうして「Focus」にしようと思ったんですか?

黒沢:やっぱり長く生きてるからなのかもしれないけど(笑)、理屈じゃどうにもこうにも出来ないことっていうのがたくさんあるなと思って。
音楽なんて最たるもので、仕事の世界では筋があったり理屈があったりとかするんだけど、音楽ってなんでこんな理屈じゃ通らないようなことって、なんかこう理由がわからないんだけど感動したりとかね。
僕もなんで曲が書けるのかなとかわかんないんですよ、理由がね。

例えばすごい勉強したとか、学校に行ったとか、スポーツをやってる人が毎日同じ練習量をしていても、上とか下とかって話じゃなくて、片やオリンピックに出れる人と、片やそうじゃない人もいる。例えば本当はマラソンがやりたかったのに水泳の選手になってる人とか。
音楽をやりたかったんだけど、文筆家になってる人とか。
やっぱりこういう仕事をしてると実はこういうことに俺は向いていると思うんだみたいな話ってたくさん聞くし、自分もやっぱりそういうことってあると思うんですよね。

最初僕は裏方の仕事をしてて、自分がまさかヴォーカリストでこんなに長く仕事をするとは思ってなくって(笑)、そんな話を友達としてると、直感とか感覚ってすごい大事だなと思うんですよ。
そういうものにピントが合ってる時って人間ってやっぱり元気だし、それに向かって進んで行けるし。

2年くらい前にほぼこのアルバムの選曲って揃ってたんだけど、バラバラだった曲がこういう形でアルバムになるって確信が見えたのが、本当に去年ぐらいだったんで、その時に感覚に対してフォーカスが合った。
でもなんら自分は変わったつもりがないんだけど、これはこうだと思えたのが半年前ぐらいだったっていうのは、これは不思議だなと。
自分がミュージシャンをやってることであったりとかね。
要するに同じことを同じようにやっていてもフォーカスが合う時と合わない時っていうのはあるんだなと。

それで「Focus」なんですね。何だか偶然は必然みたいな感じで出来たアルバムなんですね。

黒沢:そうですね。無理はしてないんですよ、だからリラックスしてるのかもしれない。

無理はしてないのにこんな良いアルバムを作っちゃうんですね(笑)。

黒沢:いや、でも7年掛かってますから!それがどうなのかと(笑)。
半年とか1年タームでそれが出来れば良いんですけど、やっぱり7年でジワジワっていうのはね。

うーん、でもずっとそれだけに向かっていたわけではなくていろいろなことをやった上でですからね。

黒沢:本当は出来るのに7年掛かるものを何かによって1年でやれってなっちゃうとやっぱりイビツになっちゃったり、資本主義の社会ってそういうものだと思うから、本当は3ヶ月掛けて作る食べ物を早く作っちゃうとか(笑)、そうすると体に悪いものが出来ちゃうとか。
音楽もやっぱりそれに近いものだとしたら、黙って見てて、そろそろ刈り入れ時だから、もう刈っとけみたいな(笑)、自然農法ですみたいなアルバムだと思うんですけどね。

前回のお話を伺った時にアルバムはいつ出ますか?って質問したら、作りたいと思ってます!っておっしゃってて、そこから着々とアルバムが出来上がるとはって思うと感慨深いですよね。

黒沢:そうですよね。だから人に言われたから早めに刈り取っちゃったりとかすると、まだここは出来てなかったなみたいなところもきっとあるかもしれないし。

ではやはり今がその時っていうことだったんですね。

黒沢:うん、ありがたいことですよね。だって聴いて頂ける方がいて、7年も掛けさせて頂いたっていうのは(笑)。
これがね、良いアルバムだよねって評価されると、やっぱりさー成長するのに1年のものを無理やり農薬とかガンガン使って作ると良くないよー(笑)みたいなのが、少しでもわかって頂けると時間掛けた甲斐もあったかなって気もするんですけど(笑)。

そうなんです、わかるんですけど、でも私達はもうちょっとしょっちゅう聴きたいなぁーと思いますね(笑)。

黒沢:いや、次はね、もうちょっとやり方がわかったんで、そう言った意味では無駄な時間も多かった(笑)。
それはやっぱりなるたけカットして次はちょっと上手くやれると良いのかなと。

そうですよね期待しています(笑)。では最後にみなさんに向けてのメッセージをお願いします。

黒沢:今回は本当に自分の中でポップ・ミュージックが好きな方にはぜひ聴いて頂きたい1枚だなと思っていますので、このアルバムを聴いてぜひライブに遊びに来て頂けると嬉しいなと思います。

ありがとうございました。

黒沢:ありがとうございました。

(Interview:Takahashi
2009年2月初旬)