ジャッキー・チェンとは?
ジャッキー・チェンは、香港出身の俳優、監督、武術家、アクション演出家として、アクション映画界に大きな功績を残してきた映画スターです。
7歳から中国戯劇学院で約10年間、京劇を通じて武術、アクロバット、演技、歌などを徹底的に叩き込まれ、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウらとともに学内でも特に優秀な7人の生徒「七小福」に選ばれます。
その後、ブルース・リーの映画などでスタントマンとして経験を積み、1970年代後半『酔拳』のヒットによってカンフーコメディという新しいジャンルを切り開き、以後ハリウッド進出を経て世界的なスターへと駆け上がります。
CGを使わない命がけのスタントと、笑いを交えたアクションの組み立てを確立し、アジアのみならずトム・クルーズをはじめとしたハリウッド映画界にも多大な影響を与えてきました。
ジャッキー・チェンのアクション
ジャッキー・チェンのアクションの最大の特徴は、緻密に計算された格闘シーンだけでなく、命がけのリアルなスタントや身体を使ったコメディ的な演出を取り入れ、シリアスな復讐劇が主流だったカンフー映画に「コメディーカンフー」といったような新しいジャンルを切り開いたところにあります。
特に1980年代の作品では、本人が大掛かりなスタントに挑み、その失敗や負傷までNG集で見せることがありました。『プロジェクトA』の時計台からの落下、『ポリス・ストーリー』のショッピングモールでのポール滑降は、現在でも代表的なスタントとして知られています。
無声映画からの影響
ジャッキー・チェンのアクションスタイルは、無声映画時代の喜劇王バスター・キートンやハロルド・ロイド、チャールズ・チャップリンから強い影響を受けています。
特にバスター・キートンが得意とした「周囲の小道具や建造物を巧みに利用するアクション」や「命がけの危険な仕掛けを笑いに変える手法」は、ジャッキー作品の核となりました。
『ポリス・ストーリー』の急こう配の崖を身体ひとつで下るシーン、2階建てバスに振り回されるスタント、『プロジェクトA2』の巨大看板が頭部に倒れかかるラスト、『奇蹟 ミラクル』のシルクハットスローなど、キートンへのオマージュには枚挙に暇がありません。
また、ジャッキースタントで最も知られた『プロジェクトA』の時計台からの落下スタントは、ハロルド・ロイド『要心無用』での時計の針にぶら下がる有名なシーンからの引用であり(落下後の天幕をつきやぶるシーンはバスター・キートンの作品に見られる)、時計台の機械室でのアクションにはチャールズ・チャップリン『モダン・タイムス』を連想させる場面があります。
このように、ジャッキー映画は無声映画の身体表現を香港アクションへ作り替えたものとして見ると、さらに面白くなるのではないでしょうか。
それでは、ジャッキー・チェンのアクションを堪能できる代表作5つを見ていきましょう。

決めポーズがカッコ良いですね
ドランクモンキー 酔拳(1978年)
ジャッキー・チェンをアジアの大スターへと押し上げたカンフーコメディの金字塔。それまでのカンフー映画に多かったシリアスな復讐劇とは一線を画し、コミカルな修行風景と過酷なアクションを組み合わせて大ヒットを記録しました。
本作の見どころは、酒を飲むほどに強くなる独特の拳法「酔拳」の描写に加え、失敗続きの修行から類まれな肉体を手に入れる過程をコミカルな演出でみせ、後半の本格的な戦いでは、相手の攻撃をかわす動きまでコミカルに見せながら、決めるところではきっちり技を見せる、その緩急の妙にあります。
若き日のジャッキーの見事な身体能力とコメディ俳優としての個性が一気に開花した、カンフー映画史に残る傑作といっていいでしょう。
ヤング・マスター 師弟出馬(1980年)
ジャッキーが監督・脚本(原案)・主演を務め、香港映画界での存在感を確固たるものにした作品。
本作の見どころは、冒頭の獅子舞の演舞からはじまり、扇子、ベンチ、スカートといった身近な小道具を活用したアイディア溢れるアクロバティックな立ち回りを経て、クライマックスの20分を超えるウォン・インシク(韓国合気道の伝説の達人)との死闘にあります。
ベンチを活用した格闘シーンで息の合ったアクションを見せるユン・ピョウ、ブルース・リー『燃えよドラゴン』の悪の首領・ハン役でおなじみ武術の達人シー・キエンなど共演陣も豪華で、見どころの多い作品となっています。
プロジェクトA(1983年)
ジャッキーが監督・脚本・主演を務め、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウとの「ゴールデン・トリオ」共演が実現したジャッキー最大の代表作と誰もが認める傑作。
本作の見どころは、無声映画からの影響を色濃く反映させたアイディア溢れるスタントやアクションの数々。ハロルド・ロイドの時計台ぶら下がり、バスター・キートンの天幕突き破り&歪曲した階段手摺の滑り落ち&急激な崖のよじ登り、機械室でのチャップリン的な身体と機械の組み合わせなど、例を挙げたらキリがないほど。
自転車を使った路地裏のチェイス、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウとの息の合ったアクションシーンなど、最初から最後まで見どころしかない傑作中の傑作といっても過言ではなく、ジャッキーの映画作りを知るうえで格好の入門編となっております。
また、ジャッキー本人が歌う主題歌『東方的威風』は、当時の日本で誰しもが口ずさみ、現在でも様々なTV番組や芸人のトークで話題になるほど馴染み深いものとなりました。
ポリス・ストーリー 香港国際警察(1985年)
ほとばしる情熱と豊富な映画的アイディア、アクションやスタントによる極限の肉体表現が頂点に達した、まさにK点超えのジャッキーアクション最高到達点ともいわれる作品。ジャッキーが監督・脚本・主演・武術指導を兼ねています。
「山の急斜面を爆走するカーアクション」「二階建てバスを追跡するアクション」「ショッピングモールにて複数人とのバトルアクション」という三本柱のアクションシーンを軸に構成されています。
CGのない時代、急斜面での迫力のカーチェイスや傘1本で走行中の2階建てバスにしがみつくシーン、ショッピングモールでのガラスを多用したアクションなど、危険をかえりみない生身のスタントには驚くばかり。
作品のクライマックス、電飾に覆われたショッピングモールのポールに飛び移り、地上3階から地下1階までの約30メートルを一気に滑り降ってそのまま地面に落下したスタントは、『プロジェクトA』の時計台落下スタントとともに、ジャンキースタントの代名詞として語り継がれています。
なお本作は、ハリウッドでも驚きをもって高く評価され、クリント・イーストウッドやシルベスター・スタローンらが自身の映画でいくつかのシークエンスを引用しています。
ラッシュアワー(1998年)
ジャッキー・チェンのハリウッドでの成功を決定づけたバディ・アクションコメディ。マシンガントークが武器の米刑事役クリス・タッカーと、寡黙で真面目な香港の刑事役ジャッキーの異色コンビが絶妙な掛け合いを見せます。
本作の見どころは、言葉や文化の違いから生じるコミカルなやり取りと、ジャッキーならではの身体能力を活かしたアクションを違和感なく融合させ、ハリウッド流の映画製作の枠組みの中でも、スタントやコメディの魅力を損なわずに世界中の観客を魅了させることに成功している点にあります。
ただ、ハリウッドの安全第一のシステム(アクションカットの細かさやカメラワーク)など、アクションに対するスタンスには大きなギャップを感じていたようで、シリーズ化までされた映画的成功作でありながら、ジャッキー個人としてはあまり気に入ってない様子。
まとめ
ジャッキー・チェンの映画を知るうえで大切なのは「強いアクション俳優」という一言だけでは足りないことです。
『酔拳』でカンフーと笑いを結びつけ、『ヤング・マスター 師弟出馬』で身体表現を発展させ、『プロジェクトA』では映画史(特に無声映画)への目配せと危険なスタントを融合。『ポリス・ストーリー 香港国際警察』ではそれを大規模な現代アクションへ進化させ、『ラッシュアワー』ではハリウッドのバディ・コメディへ持ち込みました。
CGに頼ることができなかった時代、それゆえに勇気と知恵を振り絞って、人間技とは思えないアクションやスタントを追求する姿勢を無声映画から受け継ぎ、さらに進化させたジャッキー・チェンの作品の数々をこれからも大いに堪能したいものです。
