J.S.バッハ: マタイ受難曲 (1727年版)

1727年4月11日、ライプツィヒの聖トーマス教会において初演されたバッハ (1685-1750)の最高傑作「マタイ受難曲」。その後何回かの改訂が加えられたため、現在ではいくつかの版が存在するこの大作だが、リチャード・エガーが今回の演奏で用いたのは、1727年の初演版のスコアだった (自筆譜は現存していない)。一般的には1936年の改訂版で演奏されるが、エガーは「改訂稿などの以降の版からは数々の洞察力と説得力が失われてしまった」と考え、この初稿版を選定した。これ以上ないと思われるほどのソリスト、合唱、そしてアカデミー・オブ・エンシェント・ミュージックの艶やかな響きが織り成す受難の物語は、一見柔らかい表情に見えるが、実は深遠、晦渋であり、クライマックスでは人間の罪深さを鮮やかに抉り出すなど、実に劇的な表現に満ちていることに気がつく。全ての人に贈る「マタイ」。