ロッシーニ: 歌劇「ウィリアム・テル」

活動の絶頂期である37歳で突然引退を表明したロッシーニ。この「ウィリアム・テル」はロッシーニの最後のオペラとなった。台本がフランス語で書かれているため、主人公の名前も"ギョーム・テル"と表記されており、初演もフランスで行われた。シラーの戯曲自体がスイスの伝説の英雄物語に端を発しており、日本でも"息子の頭の上のりんごを矢で射貫く"場面と勇壮な序曲のみが良く知られている。とはいえ、この歌劇にりんごのエピソードが登場するのは第3幕になってから。第1幕と第2幕ではスイスの指導者の息子アルノールとオーストリアの王女マティルデの禁断の恋と、政治的な駆け引きが描かれる。通常5時間を超える長さに加え、メルクタール役のテノールに負担がかかるため、上演される機会はあまりない。しかし、この映像では素晴らしいキャストを揃えた上、パッパーノが流麗な音楽を奏でるという理想的な上演が実現している。