江戸落語の名人・古今亭志ん朝
昭和から平成にかけての落語界を牽引した不世出の天才噺家として知られた古今亭志ん朝。父である名人・古今亭志ん生の勧めで19歳の時に落語家の道に入り、驚異的な速さで真打に昇進しました。
洗練された話芸による志ん朝の落語は、単なる笑いを超えた芸術性を持ち、繊細な表現と深い洞察力は落語を芸術の域に高めたと言われます。彼の演じる人物たちは生き生きとしており、聴衆は江戸の世界に引き込まれていきます。
同時期のライバル、立川談志をして「銭を払って聞きたいと思わせるのは志ん朝だけ」と言わしめたその落語は、令和のこの世にあっても何ら色あせることはありません。江戸の粋と人情を「艶」のある技量で高座に体現させた数々の名演から、代表的な演目5つをご紹介します。
火焔太鼓
「火焔太鼓」は古今亭志ん朝が得意とした古典落語の人気演目です。商売下手な古道具屋の主人・甚兵衛が仕入れた埃まみれの古い太鼓が、偶然通りかかった大名に思わぬ高値で売れてしまう滑稽噺です。甚兵衛の呑気な性格と、それを諭す口達者な女房とのやり取りが笑いを誘います。最後は「半鐘」と「おじゃん」を掛けた地口オチで締めくくられる、テンポの良い演目として知られています
文七元結
志ん朝落語の最高傑作と評される演目です。借金に苦しむ左官の長兵衛が、娘を救うはずの50両を若者に渡すという物語です。志ん朝の江戸っ子らしい粋な演技が光ります。特に、長兵衛の心の機微を表現する繊細な演技は秀逸で、聴衆の心を揺さぶります。人情噺の真髄を体現した名演といえるでしょう。
品川心中
遊郭を舞台にした人情噺の傑作です。志ん朝の遊女の演技が特に光る演目で、その粘りつくような独特の話し方は秀逸です。遊女お染と貸本屋の金蔵の心の機微を丁寧に描き、悲哀と滑稽さが絶妙なバランスで共存しています。志ん朝の「きれいな落語」の真骨頂を感じられる演目です。
子別れ
感動的な人情噺として知られる演目です。酒乱だった父親と離縁した母親、そして息子の再会を描いた物語で、志ん朝の演技力が遺憾なく発揮されています。特に、父親の複雑な心境を表現する繊細な演技は秀逸です。笑いと涙を巧みに織り交ぜた志ん朝の話芸は、聴衆の心を深く揺さぶります。
船徳
志ん朝の若旦那ものの代表作です。勘当された若旦那が船宿で働く姿を描いた物語で、志ん朝の若旦那の演技が光ります。プライドは高いが少し弱気な若旦那の姿を見事に表現し、江戸の風景を鮮やかに描き出します。志ん朝の洗練された話芸と、江戸情緒あふれる演技が絶妙に調和した名演です。