今宵の出席者


オーヌキ:今宵の司会・進行役。30代。今年もメタル道を一歩ずつ進む。弊社アナログ盤企画を通じてレコードに触れる。個人的偏愛CDはLAMB OF GODの『Sacrament』。
「緩やかで綺麗な月夜の幻想」と「中坊でもわかる詞作の妙」
――今回のお題は「個人的偏愛レコード」。というわけでお2人には、“世間的な評価はともかく、自分にとっては間違いなく名盤と呼べるアルバム”を5枚ずつお持ちいただきました。それではさっそくですが、チャーリーさんからご披露いただけますか?

CAMELはプログレの中ではどちらかと言うと後発のバンドでね、デビューは1973年。この『Moonmadness』は彼らの4枚目のアルバムなんだけど、1つ前の『The Snow Goose』というのがとてもコンセプチュアルな作品で、ポール・ギャリコ(※1)の小説を音楽で表現したような大作だった。
あれがかなりきっちり作り込まれた、まさにプログレ界を代表するような作品だったせいで、俺も“次はどうなるんだろう?”と心配してたんだけど、そんな時に出てきたこのアルバムは、わりとリラックスした感じの、とても聴きやすい作風になっていた。そこが気に入ったんだ。緩やかでキレイなところがね。
もちろん激しいところもあるけど・・・といっても、CAMELの場合はそれほどアグレッシヴになることはないけど、途中のリズム・チェンジやなんかも実にスムーズで、ひたすら美しい世界を堪能できる。大作の後にこれが出てきた、というのがよかったね。
※1:アメリカの小説家。1941年に刊行された短編『スノーグース』、後に映画化された『ポセイドン・アドベンチャー』などの作品で知られる


それから、メンバー4人がそれぞれ曲を持ち寄っているというのもポイントだね。『The Snow Goose』ではピーター・バーデンス(キーボード)とアンディ・ラティマー(ギター、ヴォーカル)の2人だけで曲を作ってたけど、『Moonmadness』には他のメンバーが作った曲も入ってる。


当時のファンの認識としてはさ、プログレという音楽において、鍵盤という楽器はかなり重要な位置を占めるものだった。だからピーターが脱けた時は「おいおい、CAMELどうなっちゃうんだよ?」とずいぶん心配したもんだよ。CAMELのソフトでメロウな部分はピーターが担ってるとみんな思っていたからね。ところが、実はそうじゃなかった。実際はアンディがCAMELだったんだ。


――お話の間ずっと『Moonmadness』を掛けていただいていますが、メロディが本当にキレイですね。いかにもチャーリーさんらしいセレクションだと思いました。それでは対する東風平さん、続いてお願いします。



――えっ? そんな不利な縛り、こちらからはお願いしてませんよ? 大丈夫ですか?


――お~っ、このジャケットに写っているメンバーの髪型!(笑)これ“マレット”とかいうんでしたっけ? 古いなあ~。

ヒット・シングルのタイトルをやや強引にアルバムの邦題にしてしまうという、当時の国内盤によくあるパターンで命名されているとおり、全米1位に輝いた「(I Just) Died In Your Arms(邦題:愛に抱かれた夜)」をはじめ、続いてカットされた「I've Been In Love Before」「One For The Mocking Bird」「Any Colour」などもチャートで健闘しました。
・・・が、残念ながら後が続かなかった。なので世間的にはどうしても一発屋というイメージが強いと思いますが、少なくともこのアルバムの出来は素晴らしかった。カットされなかった収録曲も、アレンジが洗練されていてなかなかいいんですよ。ポップスではあるんだけど、ロックっぽさもちゃんとあるし。そのへんはU2とかTHE POLICEとかの影響じゃないかな。髪型も含めて。(笑)
ちなみに僕のお気に入りは「One For The Mocking Bird」なんですが、好きになったきっかけは、実は歌詞の構成でした。特に最後の段落。1番と2番の歌詞の中から印象的な一節を抜き出して次々に並べたものになっているんですが、それに初めて気がついた時の感動ったらなかったです。それまでに歌われていた情景が走馬灯のようにカットインしてくるようなイメージというか・・・。


「見事な花柄のブラウス」と「太ったブルースおじさん?」
――“学校の勉強がたまたま役に立った!”みたいなことってありますよね。(笑)さてそれでは、続いて2枚目をお願いします。先攻のチャーリーさん、どうぞ。

――おお、ジャケットの真ん中の人のシャツ、見事な花柄ですね。(笑) しかもこれって女性物じゃないですか? シャツというより、ブラウスって感じですよ。


当時はインターネットなんて無かったから、情報はラジオか音楽雑誌から得るくらいしかできなかった。だからパトリック・モラーツが何者かなんて、日本のプログレ・ファンはほとんど知らなかった。後で知ったところによると、どうやらTHE NICEがヨーロッパ・ツアーをやった時に知り合ったらしいね。彼はスイスの人だから、THE NICEがスイス公演をやった時に接点が出来て、一緒にセッションをする機会なんかもあったらしい。
そういう縁でこのアルバムが作られることになったんだけど、キーボードによるオーケストレーションがとにかく素晴らしいんだよ。
当時のプレイヤーを語る際にはほとんど必ずと言っていいほど“クラシック”と“ジャズ”がキーワードとして挙がるけど、俺がキース・エマーソン(THE NICE、EL&P他)と違うなと思うのは、彼がどちらかと言うと古いジャズ、例えばデューク・エリントンやオスカー・ピーターソンなどに傾倒していたのに対して、パトリック・モラーツはもう少し後のジャズ、例えばチック・コリアとかマイルス・デイヴィスのエレクトリック時代とか、あるいはジェフ・ベックと一緒にやって有名になったヤン・ハマーとか、そういう新しいジャズの影響があるところなんだ。


チック・コリアがプログレを聴いてたかどうかはわからないけど、ロック・ミュージシャンがジャズを聴いてたというのは多分にあることだからさ。特に新しいことをやり始めたジャズ・ミュージシャンの演奏は、わりと聴いてたんじゃないかな。
※2:1970年に開発されたムーグ(モーグ)シンセサイザーの量産機。ムーグと比べて操作が簡便になったことで、演奏の自由度も格段に上がった






――なるほど。そんな印象は確かにありますね。でも、個人的にはやっぱり、花柄のブラウスが気になってしまうのですが・・・あ、もういいですか? すみません。それでは続いて、東風平さんの2枚目と参りましょう。

(全員でしばしレコードに耳を傾ける)

――黒人のブルース系の人・・・ですかね。



――ええーっ!(笑) 見た目はちょっとパンクの人みたいじゃないですか!


アメリカはフィラデルフィア出身のバンドで、インディ・レーベルからアルバムを1枚出した後、晴れて『Columbia』との契約を獲得して1988年に発表したのがこのレコードです。さきほど聴いていただいた「I'm Not Your Man」のほか、ここからは「If We Never Meet Again」もシングル・カットされ、そこそこヒットしました。
・・・が、残念ながら彼らもまた90年代を生き抜くまでには至らず、その後メインストリームから姿を消してしまいました。どうやら最近でも地元でライヴなどをやりながら緩やかに活動しているようですが、このアルバムでチャートに現われた時の彼らはハジけていて本当にかっこよかった。
当時僕は中学生だったので、ブルース・スプリングスティーンとかブライアン・アダムスとかと同じような感じで聴いていましたが、改めて聴くと、いかにもセミアコ(※3)らしい音とか、スティーヴィー・レイ・ヴォーンみたいなフレージングとか、昔のブルースマンみたいなうなり声とか、若いのにやたらブルージーでシンプルなところが渋くてぐっと来るんですよね。適度にキャッチーだし、ちゃんとロックンロールしてるし。
※3:セミアコースティック・ギターのこと。ボディの一部が空洞になっているため、軽くて柔らかみのある特徴的なサウンドを出すことができる


「カンタベリー系の頂点」と「大人になってわかった渋み」
――ここまでなかなかいい対戦が続いていますね。それでは、続いて3枚目です。チャーリーさん、次のレコードをお願いします。

いわゆるカンタベリー系のバンドはみんな、ロックな中にもジャズっぽさとかストレンジなポップさとかを持ってる。だからジャジーではあるけどそのまんまなジャズではないし、ロックではあるけど、熱いというよりは醒めた感じがある。そのへんがカンタベリーらしさと言えるところだと思うんだ。
※4:イギリス南東部カンタベリー出身のプログレ・バンドたちが特徴としていたサウンド。60年代から70年代にかけて、THE WILD FLOWERS、SOFT MACHINE、CARAVANなどが牽引した


でもまあ、カンタベリー系といったらやっぱりSOFT MACHINEとCARAVANが一番大きな柱で、彼らが流れを作ったと言っていい。HATFIELD AND THE NORTHは、その流れを受け継ぎながら集大成させた感じだね。


――実際、とても聴きやすいですよね。キレイですし、危険な展開も無いし・・・

――なるほど、奥が深いんですね。おみそれしました。それでは東風平さん、続いてどんなレコードを登場させますか?


DOGS D'AMOURはロンドン出身のバンドで、結成は1983年。このレコードは初期のレパートリーをまとめたものなんですが、見た目はこのとおり、いかにも80年代っぽいケバケバしい感じです。(笑)なのでHANOI ROCKSなんかとよく比べられていたのですが、やってる音楽は渋くて、ほとんどFACESとかROLLING STONESみたいな感じなんですよ。そこが個人的にツボでして・・・このしゃがれ声! やっぱりいいなあ。
見た目が派手なので当時はハード・ロックのフィールドでも語られていましたが、彼らの音楽って、実はイギリスのブルージーなロックンロールの伝統に則ったものなんですよね。ロッド・スチュワートのヨレヨレ版みたいなこのヴォーカルも含めて。(笑)彼らのそういう枯れた持ち味が特によくわかるのが、このレコードの最後に入っているアコースティック曲なんです。・・・ね? ひねりも何もない、このベタな感じがいいでしょ?
――ええ、味わい深いです。さきほど聴いたトミー・コンウェルの骨太でワイルドな感じとはまた違った、ウェットな情感や憂鬱さを感じさせるサウンドですね。





――僕もそうです。最近になってようやく、そういうところにまで気がつくようになりました。でも、だからこそ音楽を聴き続けることがおもしろいんですよね。
10代で才能を開花させていた「サイモン」と「グレッグ」
――さて、それでは4枚目と参りましょう。チャーリーさん、準備OKですか?



そもそもフィル・マンザネラからして“変なギターを弾く人”というイメージだしね。どちらかと言うと、プレイヤーというよりはバンマスやプロデューサーといった方面で才能を発揮する人なんだよ。だから、こうしていろんな人を集めることにも長けてる。
例えばブライアン・イーノ(キーボード、ヴォーカル)はROXY時代から付き合いがあったし、ビル・マコーミック(ベース、ヴォーカル)は、ROXYの前、QUIET SUNの頃から彼らと一緒にやってた。この人はその後、ロバート・ワイアットのMATCHING MOLEに行くんだけど、そこでギターを弾いていたのが、さっき出したHATFIELD AND THE NORTHのフィル・ミラーだという。(笑)




それからロイド・ワトソン(ギター、ヴォーカル)なんだけど、この人は今もって経歴がよくわからない。(笑)主にスライド・ギターをやる人で、ROXY周辺の人達と付き合いがあったらしいんだけど・・・詳しいところは俺はよく知りません。(笑)
ともあれそういう人達が集まってこういう音楽をやってるわけだけど、聴いてのとおり、いかにもプログレって感じではなく、不思議なポップスというかロックというか・・・ニューウェーヴとは言わないけど、王道からはちょっと外れた感じのことをやってる。


PINK FLOYDの最後の時なんか、録り貯めてあったテープを全部「これ聴いといて」ってデイヴ・ギルモアからドンと渡されたらしいよ。(笑)そんな中から彼が素材を拾い集めて作品としてまとめたのが『The Endless River』なんだって。・・・あ、今かかってるこの曲(「East Of Asteroid」)のサイモン・フィリップスはすごいよ。おっ、ツーバス来た!(笑)あともう1曲、2人に聴いてもらいたい曲があるんだけど・・・


――(笑)この、ちょっと気だるそうなアレンジがまたいい感じですね。ではでは、対する東風平さん、続いてお願いいたします。






実はこのレコードも、彼らのライヴを観てぶったまげた人が「これはやばい!」となって急いでレコーディングさせたものらしいんですが、それでも100%ブルースのアルバムにはならなかった。たぶん兄弟をアイドルみたいな流行のバンドっぽく売り出して、一山当てようとでも考えていたんでしょうね。
結局、2人はこの後のHOURGLASSでもこういう売り出し方をされてしまうんですが、でも、一生懸命がんばってるんですよ、当時まだ19歳とか20歳とかだった若い兄弟が。自分達で曲を書けるのに満足に書かせてもらえない、ブルースをやれるのにちゃんとブルースをやらせてもらえない。それでもなんとかそっちに行こうともがいているという・・・そういうのを考えながら聴くと、このサウンドにもグッと来てしまうんですよね。



――これが19歳の声とはとても思えませんよね。渋すぎます。でも、かっこいいです。
「明るい太陽のカーペット」と「50年前のヘヴィ・メタル」
――さて、それではいよいよ大詰め、最終戦です。チャーリーさん、お願いします。





さっきも言ったとおり・・・今ちょっとシンセも鳴ったけど、基本的にはほぼアコースティックな楽器だけで作られていて、オーケストラを使った曲もいくつかある。でも、やっぱり根底にあるのはブリティッシュ・フォークで、俺にとってはそこがRENAISSANCEの最大の魅力なんだよね。春になったら必ずこのアルバムを聴いてるよ。(笑)


だけどキース・レルフはハード・ロック寄りの音楽をやりたくなったみたいで、その後RENAISSANCEを辞めて、それからはジム・マッカーシーと共にプロデューサーとして関わっていくことになった。で、新しくメンツを集めるんだけど、シンガーの候補は何人かいたみたいだね。CURVED AIRのソーニャ・クリスティーナとか、マイク・オールドフィールドのところで歌ってたマギー・ライリーとか。だけど結局、アニー・ハズラムを立てたこのメンツに落ち着いた。
そして2ndアルバム『Illusion』を最後にキース・レルフの名前が載らなくなり、残っていたジム・マッカーシーのクレジットも次の『Prologue』を最後に消え、このアルバムからRENAISSANCEはついに完全に独立したバンドになった。これ以降の歴史が長いから、RENAISSANCEといえばまずアニー・ハズラムがいるこっちを思い浮かべる人が多いと思うけど、オリジナルが好きな人もたくさんいる。いい曲がいっぱいあったからね。


もちろん寂しい感じの曲もあるけど、でも全体的に太陽とか風とか、そういうイギリスの緑や自然を連想させる歌詞が多いから、おそらくそういうところだろうね。
――確かに。聴いていると心が洗われるようです。穏やかで叙情的で、いい曲ですね。中学生でこの良さに気付いていたとは、さすが慧眼のチャーリーさんです。東風平さんにはとても無理だったんじゃないでしょうか?

――曲もちょうど映画のエンディングみたいな心地いい感じになっていますが、それでは東風平さん、本日の締めとなる最後の1枚、とっておきの偏愛盤をお願いいたします。


――「どうだ!」って不必要に大きな声で言われても・・・すみません、このバンドのこと、まったく知らないのですが・・・。

え~っと、SIR LORD BALTIMOREは、アメリカ東海岸ニューヨーク出身の3人組、ドラマーがリード・ヴォーカルを務めるというちょっとめずらしいパワー・トリオです。


というのも、お聴きのとおり、50年近く前の作品だというのにめちゃくちゃヘヴィでしょ? このアルバムをレビューした批評家が初めて“ヘヴィ・メタル”という言葉を使った、なんて説もあるくらいで、当時の基準から言ってもかなり破天荒なサウンドだった。
ブルースの素養もあるパワフルなヘヴィ・ロックという点ではCACTUSとかMOUNTAINとかGRAND FUNK RAILROAD、はたまたLED ZEPPELINとかBLACK SABBATHとかCAPTAIN BEYONDあたりを引き合いに出したくなるところですが、彼らはステージでもかなりラウドで激しかったらしく、当時はむしろBLUE CHEERやSTOOGESやMC5なんかと比べられていたみたいです。

――へえ~、そうなんですね。こうして聴いてみると、60年代と70年代とでは、時代としてはもちろん連続しているとはいえ、何か大きな違いがあるようですね。

――世界のあちこちで花火が上がっていた・・・いや、まるでロックのビッグバンが起こったような時代だったんですね。改めて驚きました。さて、それではきれいにまとまったところで(笑)、チャーリーさん、最後に本日の総評を一言いただけますか?





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