本日の出席者
チャーリー:60代。秋が好きになったのは大人になってからだなぁ。でも冬はだめだ。冬来ちゃうよ~。寒いよ~。あ、この秋のトレンドカラーはブラウンだそうです。(もう終わった?)
東風平:40代。お題が「秋」か「冬」ならゴシック系で攻めるつもりだったが、まさかの「茶色」にちょい当惑。チャッチャマンボ、チャチャマンボ、ヘイ、パキュン、パキュン、パキュンパキュンパキュン!
「茶色い」ギャング団とお友達
チャーリー:俺の1枚目は、
EAGLESの2ndアルバム『
Desperado』です。結成時と同じ4人編成で、まだ
ジョー・ウォルシュも
ドン・フェルダーも入る前の、いわゆるカントリー・ロックをやってた時代の作品。その昔に実在したドゥーリン・ダルトン・ギャングという窃盗団をモデルにして作られたアルバムなので、ジャケットに写ってるメンバーも西部劇みたいな恰好をしてます。(笑)ちなみに裏ジャケでは、そのギャング団がみんな保安官に捕まってます。(笑)

EAGLES『Desperado』(1973)
東風平:ジャケットの表裏でちゃんとストーリーがあるんですね。(笑)
チャーリー:そうそう。(笑)面白いのは、EAGLESのメンバーは4人なのに、捕まってるのが5人ってところ。これ、
J.D. サウザーなんだけど、彼はここでは演奏してないんだよ。友達だから呼ばれたのか、たまたま遊びに来ててこうなったのか、ただ写真だけ撮られてるという。(笑)
東風平:エキストラに使うには大物すぎるでしょ、普通に。(笑)
チャーリー:本当だよね。(笑)音楽的にはある意味まあ、平和な音楽というか・・・ここから『
Hotel California』に向かってどんどんロックっぽく重たい感じになっていくんだけど、歌詞に目を向けると、既に哲学的だったりもする。人生観を歌ってたりとかさ。つまり彼らは最初からウェストコーストのノーテンキな人達という感じではなかったんだ。そのへんは主に
ドン・ヘンリーが担ってたらしいんだけど。
実際、このアルバムからドン・ヘンリー&
グレン・フライというソングライティング・チームが出来上がったらしいね。
ジョン・レノン&
ポール・マッカートニーじゃないけど、ここから2人でどんどんヒット曲を生み出していった。それはつまりどういうことかというと、最初はすごく民主的にスタートしたバンドが、2人のソングライターにどんどん力を集中させていくという図式になる。
東風平:なんだか皮肉ですね。その体制が確立されたことで、彼らの最大のヒット作『Hotel California』が生まれることになったわけですから。チャーリーさん自身、あのアルバムはどう評価していますか?
チャーリー:やっぱり、ちょっとビックリしたよね。(苦笑)もちろん音楽的にはすごく良いし、好きなアルバムではあるんだけど・・・でも、それまでの歴史を考えると、やっぱりちょっと複雑に感じるところはあるかな。「あ~、EAGLESもここまで来てしまったか」というような。(苦笑)
東風平:なるほど。でも、世間的にEAGLESといったら、やはりまずは『Hotel California』ですよね。(苦笑)
チャーリー:うん、そうなっちゃうね。(苦笑)・・・あ、忘れてた。なんでこのアルバムが「茶色い音楽」なのかなんだけど・・・とりあえずジャケットが茶色っぽいから。(笑)入ってる音楽もなんとなく茶色っぽいよね。 アーシーというかさ。
東風平:確かに。あ~、チャーリーさんがそう来るなら、
CCR持って来ればよかった! ちょっと迷ったんだよなあ。(笑)
チャーリー:うん、わかるわかる。CCRも茶色っぽいよね。(笑)
白、黒、ならば俺達は「茶色」
東風平:僕の1枚目はこちらです。はい、
PRIMUSの、その名もズバリ『
Brown Album』を持ってきました。

PRIMUS『Brown Album』(1997)
チャーリー:お~、直球だね~。
東風平:ええ。PRIMUSはサンフランシスコ出身、バカテク・ベーシスト&ヴォーカリストの
レス・クレイプールを中心とする3人組で、この『Brown Album』は1997年発表の5枚目なんですが、これがちょっと変わったアルバムなんですよ。
それまで一緒にやっていたドラマーが脱退してしまったので、このアルバムからブライアン・マンティアというこれまたバカテクの新しい人が入ったのですが、おそらく彼のスキルやセンスのおかげもあって、サウンドがちょっと変わるんです。もちろんバンド自身がちょうどそういう方向に進み始めていたというのもあるんでしょうが、ここで楽曲の作りが以前より複雑で技巧的になり、音もやたら生々しくなりました。
といっても、彼らの音楽的な軸足はまったくブレていません。ファンクもメタルもオルタナも自由に混ぜ込んだフリーキーなロックはいかにもPRIMUSの持ち味と言えるものなのですが・・・でも、出た当時は賛否両論かなりあったようです。今ではこれを彼らのベスト・アルバムに挙げるファンも少なくないですし、ぼく自身も好きなんですけどね。
このドラムの音なんか、まるで
ボンゾみたいじゃないですか? “インチのデカい太鼓を使ってんだろうなあ”みたいな。
チャーリー:あ~、あのドカンドカン響くような感じね。
東風平:個人的には『
Physical Graffiti』とか『
Presence』あたりの
LED ZEPPELINを感じるんですよね~。
チャーリー:なるほどなるほど。確かにそうだね。
東風平:16トラックか何かの古い機材でレコーディングしたという話もあるんですが、もともとPRIMUSは初っ端にいきなりライヴ・アルバムを出すようなバンドでしたから。演奏に自信があってライヴも得意と来れば、こういうサウンドを求めるのも当然だと思うんですよね。
彼ら自身、編成が変わったことでバンドの新たな方向性を模索していたことは、このアルバム・タイトルにも表われているんです。「
BEATLESは『
White Album』を作った。
METALLICAは『
Black Album』を作った。だったら俺達は『Brown Album』だ!」と。で、こうなったらしいです。(笑)
チャーリー:ふ~ん、そういうちゃんとした意図があったんだね。(笑)
大不評だった1985年の「茶色」
チャーリー:次はなんと、
BEACH BOYSです!
東風平:おお、チャーリーさんのど真ん中ですね。
チャーリー:でも、これを出す人はあんまりいないんじゃないかな。1985年発表の『
Beach Boys』というタイトルのアルバム。ファンの間では『Beach Boys '85』と呼ばれています。

BEACH BOYS『Beach Boys』(1985)
これ、前作の『
Keepin' The Summer Alive』から5年ぶりに出たアルバムなんだけど、この5年の間に、ウィルソン三兄弟の真ん中の
デニス・ウィルソンが亡くなってるんだ。酔っ払って海に落ちて・・・。
カールが脱けたり、
ブライアンが相変わらずボロボロだったりで、当時バンドは結構バラバラになっちゃってたんだけど、デニスが他界したことでメンバーの結束が強まり、またみんなでアルバムを作ろうということになった。
そうして作られたのがこの『Beach Boys '85』なんだけど、打ち込みっぽかったりして、音がいかにも80年代っぽいよね? それというのも、プロデューサーが
CULTURE CLUBとか
CHINA CRISISとかを手掛けていたスティーヴ・レヴィンというイギリス人だったからなんだ。新しいサウンドを取り込もうとして彼を起用したんだろうけど、これが当時のファンに大不評でさ。(苦笑)
東風平:そりゃそうなるでしょう。(笑)ある意味、対極じゃないですか。
チャーリー:そうなんだよ。でも、一応ブライアンも加わってるし、5年ぶりの新作だし・・・で、うれしいやら悲しいやら。(苦笑)面白いのは、そのスティーヴの関係で、
ボーイ・ジョージが曲を書いてたりとか、
ゲイリー・ムーアがギター弾いてたりとか、
スティーヴィー・ワンダーが参加してたりとかすること。スティーヴィー・ワンダーなんて、なんでもやれちゃう人だからさ、彼が全楽器を弾いた上にBEACH BOYSのコーラスが乗ってる、なんて曲もある。(笑)
東風平:超アメリカンなBEACH BOYSの曲に超アイリッシュなゲイリー・ムーアのギター、というのはどうなんでしょう? これまた対極な気がしますが。(笑)
チャーリー:あ、でも、あんまりガシガシ弾いてはいないけど、いかにもゲイリー・ムーアらしい伸びのあるギターを弾いてるよ。この曲なんだけど・・・
東風平:あ、本当だ! こってりした泣きは入れず、抑えめに弾いてる感じはしますが、それでもすぐに彼のトーンだとわかりますね。良い仕事してるなあ~。
チャーリー:うん、そうだよね。ちなみに、なぜこれが「茶色」なのかというと、1曲目が「Getcha Back」だから。ゲッ「チャ」バック・・・すいません。(笑)
東風平:ぜんぜん大丈夫っす。(笑)ソウル系の人もよく「ゲッチャ○○」って言いますよね。
ジェームス・ブラウンとかしょっちゅう言ってる気がする。(笑)
チャーリー:そうだね。「ホワッチャ○○」とかもよく言ってる。(笑)
東風平:そうそう!
左とん平さんも言ってましたね。「ヘイ・ユウ! ホワッチャ・ネ~ム!」って。(笑)
「茶色い」ブラック・サバス?!
東風平:またまた直球です。僕の2枚目は、
BROWNOUTの『Brown Sabbath Vol.II』です。

BROWNOUT『Brown Sabbath Vol.II』(2016)
チャーリー:おっ、ホーンが入ってるね。
東風平:ええ。もともとは
GRUPO FANTASMAというラテン・ファンク・バンドのサイド・プロジェクトとして始まったんだそうです。だから基本的な編成は本体とほとんど同じで、サックスとトランペットとトロンボーンが入る9人組。今日持ってきたのは
BLACK SABBATHのカヴァーだけで構成された2016年発表の企画盤なのですが、タイトルに『~Vol.II』とあるとおり、2014年に先行作となるBLACK SABBATHのカヴァー曲集第1弾を出しています。
BLACK SABBATHのカヴァーって、メタル業界ではまあよくある話なんですが、実のところカヴァーというよりコピーに近いものも少なくありません。その点、BROWNOUTはがっつりラテン・ファンクにリアレンジしちゃってますからね、メタル耳にもとても新鮮に聴こえてカッコいいんですよ。
ギターも歪んでいるし充分にへヴィで、原曲の重々しさを失うことなく巧みにラテンの陽気なノリや跳ねたリズムを取り込んでいる。その手腕がとにかく素晴らしいです。このへんなんか、赤坂あたりのナイトクラブで掛かってそうな良いムードでしょ?
オジー・オズボーン本人も聴いて絶賛したそうですが、なるほど納得です。(笑)
チャーリー:うんうん、これは面白いね。(笑)さすがです。
「茶色い」瞳を青くしないで
チャーリー:次はですね、日本でもシングル・ヒットした
クリスタル・ゲイルのこの曲「Don't It Make My Brown Eyes Blue」を。彼女、どっちかというとカントリーの人なんだけど・・・
東風平:アメリカの方ですか?
チャーリー:そう。お姉さんが大物カントリー・シンガーの
ロレッタ・リン。だいぶ歳は離れてるらしんだけど、実の姉妹でね。そのお姉さんの影響で歌い始め、ギターを教わり、彼女もカントリー・シンガーになったという。同じ道を行ったんだね。
この『We Must Believe In Music』の前に出ていたアルバムではわりと直球のカントリーをやってたんだけど、ここに来て普通のポップス・ファンにもアプローチするようになった。ジャズっぽかったりしてね。で、ポップ・チャートの2位くらいまで行くヒット作になった。カントリー・チャートではもちろん1位。日本でもかなりヒットしたんだよ。

CRYSTAL GAYLE『We Must Believe In Music』(1977)
東風平:へえ~、そうなんですね。お酒のCMとかに使われそうな、上品で良い雰囲気の曲ですもんね。
チャーリー:ラヴ・ソングというか、失恋の歌なんだけどね。「Don't It Make My Brown Eyes Blue」、つまり「私の茶色い瞳をブルーにしないで」と。
東風平:なるほど。「青い」という色と「ブルー」という気持ちが掛かっているわけですね。
チャーリー:そうそう。クリスタル・ゲイルって、今でいうとたぶん、
ノラ・ジョーンズみたいな感じになるんだろうね。
東風平:ああ、わかりやすいですね。カントリー畑から始まってポップス・フィールドでスターになる人って、アメリカでは定期的に出てきますね。最近だと
テイラー・スウィフトとかもそうじゃないですか?
チャーリー:彼女も最初はカントリー・シンガーとして紹介されてたけど、いつのまにかポップスの、しかもバリバリにダンスしちゃう感じになってたもんね。
東風平:そういう“成功への道”が出来上がってるんですかね。
シェリル・クロウなんかもそのルートかもしれません。
チャーリー:そうだね。あ、そうそう、
フランシス・フォード・コッポラが作った『
ワン・フロム・ザ・ハート』という映画があるんだけど、知ってる? そのサントラを
トム・ウェイツがやってるんだけどさ、そこにクリスタル・ゲイルも参加してて、トム・ウェイツとデュエットしてるんだよ。あの声とこの声で。(笑)ちょっと合わなそうに思える面白い取り合わせだけど、すごく合っててね。あれもよかったよ。
「茶色い」石は、隠語で・・・
東風平:はい、次は超定番、
GUNS N' ROSESのデビュー・アルバム『
Appetite For Destruction』です。ここからの「茶色ソング」はもちろん「Mr. Brownstone」。ブラウンストーンとは文字どおり茶色い石のことで、アパートの壁を飾る建材などにも使われるそうです・・・が、それはあくまで表向きの意味で、隠語では“ヘロイン”を指すそうです。(笑)

GUNS N' ROSES『Appetite For Destruction』(1987)
チャーリー:どうせそんなことだろうと思ったよ。GUNS N' ROSESが建材の歌を唄うわけないもんね。(笑)
東風平:そのまんまでしょ?(笑)ここの2人のギタリスト、
スラッシュと
イジー・ストラドリンがヘロインの話をしている時にリフを思いついて、そのままジャムって書き上げた曲らしいです。(笑)
チャーリー:ROLLING STONESの「Brown Sugar」と似た感じだね。
東風平:ええ、音楽的にも、GUNS N' ROSESにはROLLING STONESの影響がたっぷり入っていますからね。特にイジーのギターは、かなり
キース・リチャーズっぽいと思いますよ、雰囲気も含めて。
余談ですが、GUNS N' ROSESと同じロサンゼルス出身の
MOTLEY CRUEにもやっぱりROLLING STONESの影響が入っていました。1stアルバム『
Too Fast For Love』のジャケットなんてまんま『
Sticky Fingers』のパロディですからね。ちなみに、彼らの5thアルバムは『Dr. Feelgood』というタイトルでしたが、これも実は“麻薬の売人”という意味です。そのへんも似ている。(笑)
混乱期に録られた「茶色い」靴
チャーリー:次も、大物いきます。
BEATLESです。といっても、これってあんまり見たことないんじゃないかな?『
Hey Jude』というアルバム、というかコンピなんだけど。「Revolution」とか「Paperback Writer」とか「Can't Buy Me Love」とか、シングルB面曲の「Rain」とか・・・「Hey Jude」もアルバムには入ってない曲だね。「Don't Let Me Down」もシングルだけの曲。そういうのを集めたコンピです。

BEATLES『Hey Jude』(1970)
東風平:収録曲は時期的に結構バラけているんですね。
チャーリー:そうだね。これのB面2曲目に「Old Brown Shoe」という
ジョージ・ハリスンの曲が入っていて・・・そもそもこのコンピって、アメリカの『Capitol』が企画したものなんだ。『
Abbey Road』と『
Let It Be』の間に出たんだけど、要はその間をつなぐアルバムが1枚ほしかったと。当時は『Let It Be』が出るのか出ないのか、よくわからない状態だったからね。
この頃のBEATLESって、すごく不思議というか、とにかく混乱してたからさ。「Old Brown Shoe」もちょうどその頃、どうやら「ゲット・バック・セッション」と「アビイ・ロード・セッション」の間に録られた曲らしいんだよね。だからアメリカでは1970年に出た。イギリスでは1977年にリリースされたのかな。ちなみに、本当はこの裏ジャケの写真がジャケットになる予定だったんだって。それが手違いでこうなった。(笑)
東風平:へえ~。構図的には現行の方で正解な気もしますけどね。
その詩人の名は「茶色」
東風平:僕も大物行かせていただきます。お聴きのとおり
CREAM『
Wheels Of Fire』の幕開きを飾る名曲「White Room」ですが、これがなんで「茶色」なのか? “おいおい、白じゃないのか?”とお思いでしょうが、実はこの曲の歌詞を書いた人の名前が
ピート・ブラウンなんです。

CREAM『Wheels Of Fire』(1968)
チャーリー:へえ~、そうなんだ。
東風平:そうなんです。ピート・ブラウンは他にもいくつかCREAMの作詞を手掛けていて、「Sunshine Of Your Love」や「SWLABR」「Politician」などにもクレジットがありますが、もともとは詩人として名を成した人みたいです。
だからなのか、言葉の使い方がやっぱりちょっと変わっているんですよね。例えばこの「White Room」にしても、1番の歌詞にはやたら色が出てくる。「白い部屋」「黒いカーテン」「黒い屋根」「黄金の舗道」「白銀の馬」と。こういう言葉の並べ方って、詞というよりは詩という感じがしません?
チャーリー:うんうん。久しぶりに聴いたけど、曲もかっこいいよね~。
ドビュッシー最新の「茶色」音
チャーリー:最後はなんと、クラシックです。
冨田勲さんの『
月の光』。いわゆるシンセサイザー・・・といっても当時はムーグとかモーグとかって言ってたんだけど、ムーグを使った冨田さんの作品としては、このアルバムが最初になるのかな。

冨田勲『月の光』(1974)
テレビ番組とかコマーシャルとか、アニメとか・・・『ジャングル大帝』もそうだけど、これ以前にも冨田さんは膨大な数の作品を手掛けていた。もちろんシンセを使った曲もその頃からちょこちょこあったようだけど、100%シンセというのはおそらくこのアルバムが初めてだと思う。そのA面3曲目「亜麻色の髪の乙女」を・・・亜麻色ってまあ薄茶色なんだけど、最後にこれを。
東風平:「亜麻色の髪の乙女」って・・・
チャーリー:そう、もちろん
ドビュッシーの。というか、このアルバムに入ってるの、全部ドビュッシーの曲なんだけどね。
東風平:しかもそれをムーグだけでやってる、と。
チャーリー:うん、ほぼムーグなんだけど、他にもメロトロンとかフェイザーとか、フェンダーのディメンションというリヴァーブのユニットみたいなのとか、そういうのも使ってたみたい。ここに使用楽器が書いてあるんだけど・・・ミキサーも16チャンネルだったようだね。この頃のシンセって単音しか出なかった。和音が出せないから音を重ねていかなきゃいけなかったんだよ。
東風平:いわゆるアナログシンセってやつですか?
チャーリー:そうそう。だから音も全部、一から作ってかなきゃならなかった。
東風平:この当時、本物のムーグを持っていた人って、日本にどれくらいいたんですかね?
チャーリー:このアルバムが出たのは1974年だけど、その頃にはもうそれなりに出回ってたよ。1974年といったら
EL&Pの『
Brain Salad Surgery』がもう出てるし、
YESは『
Relayer』が出てる。だからこの頃には・・・ARPってのもあったけど、シンセはそれなりにポピュラーな楽器だったんだ。
でも、冨田さんと彼らとでは志向が違う。
キース・エマーソンや
リック・ウェイクマンは、やっぱりバンドの中での楽器という使い方だった。ライヴでも使わなきゃならないから、ステージ上であまりごちゃごちゃしたことはやってられない。一方、冨田さんは、今までにない音を使って作品を創りあげていくというか、シンセを使ってオーケストレーションをやるというか、そういう志向の違いがあったんじゃないかな。
このアルバムが出る2年ぐらい前だったかな、FM東京で2時間の特別番組が放送されたんだけど、そこに冨田さんが生出演して、音作りについて説明してくれたことがあったんだ。『ムーグの仕組み』とか『ムーグのすべて』とか、なんかそういうタイトルでさ。最初に出るピーッという発信音に倍音を付けたりしながら加工してくっていうのを、本人が説明付きで実演してくれたんだよ。
その番組の中で、冨田さんが当時まだ作りかけだったこのアルバムの曲をいくつかかけてくれたんだけど、あれは面白かったね。すごいと思ったよ。正弦波だの何だのいろんな専門用語がバンバン出てきて最初はよくわからなかったけど、カセットに録って何度も聞いてくうちに説明もだんだんわかってきてさ。中学生には非常に興味深い番組だった。もちろん、買えはしないんだけど。(笑)
東風平:言ってみれば、当時の最先端の楽器ですもんね。
チャーリー:あの番組の中で冨田さんが言ってて今でも印象に残ってるのが、「ムーグとは要するに道具である」ということ。つまり「これはカナヅチやノコギリみたいなものであって、これだけで音を出すことはできない。重要なのは、その道具を使って何を作るかということだ」というね。
だけど、日本のレコード会社は最初は出してくれなかったらしいよ。ロックでもない、クラシックでもない、これって何なの?って感じで。ところがアメリカへ持って行ったら即リリースOKになった。で、クラシック・チャートの2位に入った。日本で出たのはその何ヵ月か後のことだけど、それもそうだよね。なにしろ「THE NEWEST SOUND OF DEBUSSY」だもん。(笑)
東風平:まさに最先端の音楽、だったんですね。
経験値で味が深まる「茶色」
東風平:それでは最後。僕はこちら、
HELLACOPTERSの『
Rock & Roll Is Dead』でシメたいと思います。なぜこれが「茶色」かは言うまでもありませんね。ジャケットが「茶色」だからです。(笑)音楽はお聴きのとおり、シンプルなロックンロール。まんま
チャック・ベリーでしょ?(笑)

HELLACOPTERS『Rock & Roll Is Dead』(2005)
チャーリー:いいね~、わかりやすい。(笑)
東風平:彼らはスウェーデン出身、鍵盤も入る5人組で、これは2005年発表の6thアルバム。ギター&ヴォーカルの
ニッケ・アンダーソンはもともと
ENTOMBEDというデス・メタル・バンドでドラムを叩いていたんですが、この人の音楽の趣味がまあ幅も奥行きもすごいんですよ。パンクもメタルもブルースもポップスもロックンロールもR&Bも何でも大好きというものすごい柔軟な人で、知識も愛情もとにかくハンパない。
そんなとてつもない音楽マニアが率いていたバンドなので、サウンドのコクが本当にすごいんです。例えば、今ちょうど掛かっている「Before The Fall」は、もちろんチャック・ベリーに通じるシンプルでストレートなロックンロールとして聴けます。が、直結でこの音なのではなく、いろんなジャンルの音楽を通過した上でのこの音なので、サウンドの含蓄がものすごい。甘いとか辛いとかしょっぱいとかだけじゃない、ものすごく深みのある「うまみ」があるというか。
チャーリー:あ~、あるよね、そういうの。
東風平:ええ、だから聴く人の経験値によって、聴こえ方もちょっと違ってくるんじゃないかと思います。
WHOを感じる人もいるだろうし、ROLLING STONESを感じる人もいるだろうし・・・
チャーリー:俺は
KINKSかなと思ったよ。ブリティッシュな感じで。
東風平:わかります。『Motown』などにも通じていた往年のイギリスのロックに通じる薫りがありますよね。音の選び方、コードのつなげ方、決めフレーズの入れ方などもこざっぱりとして洗練されていますし。
そういうサウンドの特徴は、実はこのジャケットについても言えることなんです。普通に見れば茶色地にただ文字が載っているだけのごくごくシンプルなデザインですが、見る人が見れば、タイトルの書体が『
死霊のはらわた』のロゴに似ていることに気付くかもしれません。このアートワークを手掛けたニッケは大のホラー映画ファンでもあるので、おそらくこれは意図的なものだと思います。
ちなみにHELLACOPTERSはこの後、
カヴァー・アルバムを1枚出して解散してしまうのですが、それからニッケは
DATSUNSでヴォーカル&ベースをやっているドルフ・デ・ボーストと
IMPERIAL STATE ELECTRICをやっています。こっちもカッコいいので、機会がぜひあったら聴いてみてください。
チャーリー:うんうん。そっちも面白そうだね。
たくさん出てますアナログ盤
輸入アナログ盤 Music On Vinyl
在庫あります♪レコードプレーヤー&交換針
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