ワンカット長回しの魅力
ワンカット長回しとは、細かなカット割りをせず長時間カメラを回し続ける撮影技法のこと。2017年の映画界を席巻した『カメラを止めるな!』でも話題となりました。
映画史を紐解いてみても、長回しを駆使した作品が数多く存在しています。なぜワンカット長回しなのか、その効果的な理由には以下のようなものがあります。
1. 視聴者を釘付けにする効果
映像に切れ目がないため、視聴者が目を離す隙がなく、最後まで見てもらいやすくなる
2. 臨場感や緊張感の演出
カットせずに撮影を続けることで、役者の緊張感や映像の臨場感を維持し続けることができる
3. 独特の世界観の表現
途中でミスができない緊張感や、セットが次々と入れ替わる様子など、ワンカット長回しならではの独特の世界観を表現できる
4. 技術的な評価と話題性
撮影の難しさが一般の人にも伝わりやすいため、よくできたワンカット長回し映像は高く評価され、話題になりやすい傾向がある
5. リアルタイム性の強調
『ウトヤ島、7月22日』のように、リアルタイムで進行する物語をより効果的に表現できる
これらの理由から、ワンカット長回しは映画やPR動画など様々な映像作品で活用されています。今回はそんなワンカット長回しが印象深い作品を見ていきましょう。

当時映画館に10回以上は通いました
エルミタージュ幻想(2002年)
ロシアの巨匠・ソクーロフ監督がエルミタージュ美術館を舞台に96分間の完全なるワンカット撮影を実現させた驚異的な作品。流麗なカメラワークと優雅かつ緊張感あふれる役者達の演技でロマノフ王朝300年の歴史を壮大に描き出し、国際的に高い評価を得た傑作となっています。
ボイリング・ポイント/沸騰 (2021年)
ロンドンの高級レストラン。一年で最も賑わうクリスマス前の金曜日の一夜を舞台に、オーナーシェフの翻弄される様を全編90分ワンカットでスリリングに捉えます。脚本と演出・役者たちの演技が非常に洗練されており、ワンカット長回しであることすら忘れてしまうほどの出来栄えです。
1917 命をかけた伝令(2019年)
第一次世界大戦を舞台に、2人の兵士が前線にいる1600人に作戦中止の伝令に赴く時間を、尋常ならざる臨場感と没入体験とともに観客に投げつけます。各シーンをワンカットで撮影し継ぎ目を自然にしてワンカット長回しとして見せる技術には驚くばかり。大量のエキストラや綿密なカメラアングルなどプロダクションの苦労は相当なものだったことでしょう。
雨月物語(1953年)
日本映画のみならず世界の映画史上に燦然と輝く溝口健二監督の最高傑作。源十郎が幻想から解き放たれ、廃屋となった我が家に戻る終盤のシーンのワンカット長回しに世界が驚嘆しました。
特筆すべきは溝口監督の卓越した長回し技法で、幽玄な美しさと緊張感を湛えた映像美を生み出し、その流麗なカメラワークは物語の情感を増幅させ、観る者を幻想的な世界へと誘います。ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞受賞など国際的にも高く評価され、マーティン・スコセッシやゴダールなど名だたる監督たちがフェイバリットに選ぶほどであります。
ウトヤ島、7月22日(2018年)
2011年7月22日にノルウェーで起きた77人もの命が奪われたテロ事件を、72分ワンカット長回しのリアルタイム進行で描いています。サマーキャンプ中に銃声が鳴り響き、森の中を必死に逃げまわる主人公の視点を通して、パニックの中で懸命に生き延びようとする若者たちの緊張感をトラウマレベルのリアルな描写も交えて映像化しています。